日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候変動

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、野木 義史(国立極地研究所)、大島 慶一郎(北海道大学低温科学研究所)

17:15 〜 18:30

[MIS15-P04] 南大洋Conrad Rise (KH10-7)の海底堆積物中のC、Fe、Pの化学種別存在量から探る最終氷期以降の
酸化還元状態と栄養塩濃度の変遷

*下出 直幸1山口 耕生1,2池原 実3 (1.東邦大学大学院理学研究科化学専攻、2.NASA Astrobiology Institute、3.高知大学海洋コア総合研究センター)

南極寒冷圏 (Antarctic Cryosphere)を構成する南大洋は、地球規模の気候システム変動に重要な役割を果たしてきた。現在の南大洋は、高栄養塩・低クロロフィル(HNLC: high-nutrient, low-chlorophyll)海域として知られており、リンや鉄などの微量の制限栄養塩によって基礎生物生産が制御されている。過去の南大洋は、約4万年前〜現在までの海底堆積物の記録から、最終氷期から完新世に向けて、(少なくとも堆積物は)還元的な環境から酸化的な環境へと変化したことが知られている。しかしながら、当時の海洋の酸化還元状態や栄養塩状態の変化の解明はほとんど進んでいない。
本研究では、南極寒冷圏の構成要素の一つである海氷が、氷期—間氷期サイクルで分布が変化することに起因する海水の酸化還元状態の変化に着目して、当時の生物生産や栄養塩状態の変化をリン・鉄の化学種別存在量・堆積物中の有機炭素 (Corg)量から制約し、また海氷による陸成起源有機物の寄与の有無を有機炭素の安定同位体組成から探ることを目的とした。
試料は南大洋インド洋区のConrad Riseで2010年に採取された堆積物コアCOR-1bPC、37試料を用いた。リンはRuttenberg (1992)のSEDEX法を改良した方法により、吸着性リン (Pabs)、鉄結合態リン (PFe)、自生アパタイト態リン (Pauth)、砕屑性リン (Pdet)、有機態リン (Porg)、の5形態に分画し、鉄はPoulton et al. (2005)により、FeHCl、Fecarb、Feox、Femagの4形態に分画した。有機炭素の量と安定同位体組成は高知大学海洋コア総合研究センターのEA-irMSを用いて測定した。
大陸からの流入量を示すPdetの存在量は、最終氷期の方が間氷期よりも多く、それぞれ平均で0.004 wt.%、0.002 wt.%であった。δ13Corg値は、最終氷期は間氷期よりも低く、それぞれ平均で−23.63 ‰、−21.73 ‰であった。これらの結果は、海氷が最終氷期にコア採取地点であるConrad Rise (南緯54.2˚)まで到達していたことを示唆する。最終氷期では還元的な堆積環境で生成する黄鉄鉱が存在したため、海氷によって大気−海洋相互作用が制限されて海中の溶存酸素濃度が減少し、還元的な堆積環境を形成したと考えられる。さらに、PFe、Feox存在量の増減の繰り返しは、最終氷期の間に短期的な酸化イベントが起こっていたことを示唆する。
最終氷期から完新世への遷移期にあたる融氷期 (Deglacial period)では、完新世に移行するにつれてCorg量は減少するが、制限栄養塩元素のPの各形態とFeox、FeHClの存在量は急激に増大した後で減少した。これは、海氷の融解量が増加して栄養塩供給が増大し、同時に溶存酸素の供給も増加して急激に酸化的な環境に変化し、鉄酸化物量が増大し有機物分解が促進されたため、と考えられる。この溶存酸素の供給の増加は成層化の解消、南極周極流の南下に起因していると考えられる。
本研究により、最終氷期では、海氷の存在が還元的な堆積環境を形成したが、鉄酸化物量の増減により、短期的な酸化イベントも起こっていたと示唆される。融氷期では、成層化の解消と南極周極流の南下による溶存酸素の供給増大が、リン・鉄の形態別存在量・有機物存在量の変化に反映されていた。これらの化学種分析は、海洋の酸化還元状態や栄養塩状態を復元する上で有用なものであると言える。