日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 地球掘削科学

2016年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 103 (1F)

コンビーナ:*山田 泰広(海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、菅沼 悠介(国立極地研究所)、新井 和乃(海洋研究開発機構)、梅津 慶太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:森下 知晃(金沢大学理工研究域自然システム学系)、道林 克禎(静岡大学学術院理学領域)

14:45 〜 15:00

[MIS16-17] オマーンオフィオライトICDP陸上掘削の概要と展望

*高澤 栄一1,2田村 芳彦2道林 克禎3森下 知晃4阿部 なつ江2宮崎 隆5仙田 量子5キヨートウー モー2 (1.新潟大学理学部地質科学科、2.海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター、3.静岡大学理学研究科地球科学専攻、4.金沢大学理工研究域自然システム学系、5.海洋研究開発機構 地球内部物質循環研究分野)

キーワード:オマーンオフィオライト、国際陸上科学掘削計画、地殻-マントル境界、モホ面、孔内検層

米国コロンビア大学のP.B. Kelemen博士を中心とするオマーンオフィオライト南部での陸上掘削申請が国際陸上科学掘削計画 (ICDP)によって承認され, 2016年8月から第1期,2017年1月〜3月に第2期が予定されている(http://www.omandrilling.ac.uk)。我々はICDPの枠組みを利用し,はんれい岩/かんらん岩境界を貫く新掘削孔を日本側から提案し,最新の孔内検層を加え,斬新なコア試料の記載手法を導入し,マントル−地殻境界周辺の物質的・物性的実態を明らかにすることを計画している。
オマーンオフィオライトICDPは,地殻セクションのはんれい岩層,マントルダイアピル付近のマントル地殻境界,およびオフィオライト基底部の変質かんらん岩を掘削のターゲットとして掲げている。我々はさらに海嶺軸から離れたところの地殻−マントル境界相当を掘削し,採取した連続的なコアを用いて完全に記録することを計画している。コア試料の全岩主要元素,鉱物組成分析,微量元素組成,Sr-Nd-Pb-Hf同位体,Re-Os同位体,メルトインクルージョンの分析を系統的に行い,海洋地殻−マントル境界に関する以下の課題を明らかにする。(1) 新鮮な岩石の記載によってモホ不連続面の実態を明らかにする。(2) モホ面周辺の高温プロセスと低温プロセスの実態を明らかにする。(3) マントル流動の強度と剪断センスを同定し,モホ面直下のマントルの流動勾配を検証する。(4) 掘削孔内検層および岩石物性計測を行い,海洋地殻−マントル境界付近の物性を明らかにする。また,これまでの研究により,オマーンオフィオライトには,中央海嶺玄武岩に加え島弧火山岩も伴い,沈み込み帯のマグマ活動の痕跡が重複していることが明らかになった。そこで,(5) 海洋地殻から大陸地殻が形成する過程を明らかにする。
今回の陸上掘削はオマーンオフィオライトから掘削コアを採取する最大の機会であると同時に,将来の海洋マントル掘削へ向けたアナログとしても位置づけている。オマーンオフィオライトICDPでは,蛇紋岩化作用,地下水,微生物など低温プロセスが優先されているが,我々の新掘削孔提案は,火成作用,マントル変形などに特化し,現行のオマーンオフィオライト陸上掘削に欠けている「高温プロセス」の解明に貢献したい。これにより地球科学未解決問題のモホ面の物質科学的実態の解明が大きく進むことが予想される。さらに,地表調査で得られた空間的な情報と掘削コアから得られる連続的情報を有機的に組み合わせて,高温・低温プロセスを始め,マントル流動とモホ面の物理的な性質を明らかにし,地殻−マントル境界の総合的な理解に到達するという意義がある。オマーンオフィオライト陸上掘削は,掘削技術の向上および若手研究者養成にも大きく貢献することが見込まれる。本研究では掘削孔を利用し,最先端の孔内検層ツール(NeoScan など)を導入しデータ取得を行う。さらに,掘削したコアを地球深部探査船「ちきゅう」の最新設備を用いて研究者の指導のもとに学生が集中的に記載・解析するという独創的な方法を計画している。その成果は,その過程を通して岩石記載と孔内検層に秀でた学生が育つことにつながると予想される。