日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] 古気候・古海洋変動

2016年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 A04 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、中川 毅(立命館大学)、林田 明(同志社大学理工学部環境システム学科)、座長:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

14:30 〜 14:45

[MIS17-04] 浅海堆積物に記録された放散虫群集の古海洋学的意義

*板木 拓也1佐川 拓也2 (1.産業技術総合研究所、2.金沢大学理工研究域)

キーワード:沿岸環境、対馬海流、日本海固有水

一般的に放散虫化石の分析は,その多産が期待される深海堆積物を対象として行われることが多いが,条件が整っていれば比較的に浅い水深(300m程度)の堆積物にも多くの化石が保存される.このような浅海堆積物に記録されている放散虫群集には,深海堆積物からは取得できない重要な古海洋情報が記録されている場合がある.
例えば,浅海域は,陸に近い沿岸に広がっている場合が多い.現在の日本海においては,日本列島の沿岸を対馬海流の第1分枝が北上し,沖合よりも強くこの暖流水の影響を受ける.鳥取沖(水深316 m)から採取されたコアGH872-308と,その沖合の隠岐堆(水深946 m)から採取されたコアD-GC6に記録されていた温暖種の産出変化を調べた結果,完新世における温暖化が沿岸域でより早く起こっていることが明らかとなった.このように,沿岸と沖合の古海洋記録を比較することは,より詳細な古海洋循環を復元する上で重要である.
また,プランクトンである放散虫は,種により生息深度が異なることから,表層のみではなく中深層の環境指標としても期待されている.現在の日本海においては,表層付近では対馬海流の影響を受けた温暖群集で構成され,中層以深には日本海固有水に適応した寒冷種が生息している.しかし,過去における深度分布が現在と同じであったとする保証はなく,深海堆積物からは産出した放散虫が当時どこの水深に生息したかは分からない.一方,浅海堆積物に記録された放散虫は,コアが採取された水深より浅い水柱に生息する種が記録され,深海種は含まれないはずであり,過去の放散虫の深度分布を知る上で重要な情報となる.コアGH872-308とほぼ同一地点のIODP Site U1427から採取されたコア試料からは,現在の日本海では水深1,000 m以深の日本海固有水に適応しているCycladophora davisianaが,MIS-12など幾つかの層準で多産することが明らかとなった.このことは,本種の生息水深の上限が当時は300 mよりも浅い水深にまで移動していたことを示している.これは,当時の中深層水の沈み込み深度が表層低塩分化のために浅くなっていたことが原因かもしれない.