09:45 〜 10:00
[MIS17-16] 中期完新世の石筍成長と縄文人の農耕活動
キーワード:石筍、完新世、縄文人
私の研究室ではU-Th年代をベースとした石筍研究を進め,後期更新世〜完新世の陸域での降水現象についての新たな知見を得てきた。その研究過程において,現在も滴下水を保持する石筍の多くが6000-4000年前に成長速度を低下もしくは停止させていることが分った。その原因は明らかに滴下水の低いCa濃度にある。方解石沈殿に必要な濃度(43 mg/L; Kano et al., 1998)を満たす滴下水は少ない。すなわち,6000-4000年前,全国的に滴下水のCa濃度が低下したと考えられる。
滴下水のCa濃度を一義的に支配するのは石灰岩の溶解が起こる土壌/石灰岩インターフェースでの二酸化炭素分圧である。根の呼吸や微生物の有機物分解により土壌中で発生する二酸化炭素の濃度は気温・降水量・植生に関連する。6000-4000年前に土壌二酸化炭素が低下したのであれば,その頃に気温低下,降水量減少,植生の減退のいずれかが起こったことになる。
比較的安定な完新世の気候を考えると,植生の減退が最もありえそうである。また,6000-4000年前という時期を考えると,日本国内に拡散した縄文人による農耕活動が原因であるかもしれない。縄文人は雨風や寒さをしのぐため石灰岩地帯の岩陰や洞窟の入口を好んで住居とした。そして焼畑農業を行い,豊富な森林植生を破壊したと考えられる。それにより土壌二酸化炭素濃度と滴下水Ca濃度が低下し,石筍の成長が減衰したのだろう。現段階でこの仮説を支持する証拠は少ないが,琵琶湖堆積物などで見られる完新世中期の微粒炭化物のピークは縄文人の農耕活動を暗示する。今後は,完新世中期の詳細な微粒炭化物や花粉分析に加え,遺跡から出土する木炭の放射年代測定を進めることが望まれる。
A. Kano, K. Sakuma, N. Kaneko and T. Naka (1998) Chemical properties of surface waters in the limestone regions of western Japan: Evaluation of chemical conditions for the deposition of tufas. Jour. Sci. Hiroshima Univ. Ser. C, 11, 11-22.
滴下水のCa濃度を一義的に支配するのは石灰岩の溶解が起こる土壌/石灰岩インターフェースでの二酸化炭素分圧である。根の呼吸や微生物の有機物分解により土壌中で発生する二酸化炭素の濃度は気温・降水量・植生に関連する。6000-4000年前に土壌二酸化炭素が低下したのであれば,その頃に気温低下,降水量減少,植生の減退のいずれかが起こったことになる。
比較的安定な完新世の気候を考えると,植生の減退が最もありえそうである。また,6000-4000年前という時期を考えると,日本国内に拡散した縄文人による農耕活動が原因であるかもしれない。縄文人は雨風や寒さをしのぐため石灰岩地帯の岩陰や洞窟の入口を好んで住居とした。そして焼畑農業を行い,豊富な森林植生を破壊したと考えられる。それにより土壌二酸化炭素濃度と滴下水Ca濃度が低下し,石筍の成長が減衰したのだろう。現段階でこの仮説を支持する証拠は少ないが,琵琶湖堆積物などで見られる完新世中期の微粒炭化物のピークは縄文人の農耕活動を暗示する。今後は,完新世中期の詳細な微粒炭化物や花粉分析に加え,遺跡から出土する木炭の放射年代測定を進めることが望まれる。
A. Kano, K. Sakuma, N. Kaneko and T. Naka (1998) Chemical properties of surface waters in the limestone regions of western Japan: Evaluation of chemical conditions for the deposition of tufas. Jour. Sci. Hiroshima Univ. Ser. C, 11, 11-22.