日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] 古気候・古海洋変動

2016年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 A04 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、中川 毅(立命館大学)、林田 明(同志社大学理工学部環境システム学科)、座長:林田 明(同志社大学理工学部環境システム学科)

09:45 〜 10:00

[MIS17-16] 中期完新世の石筍成長と縄文人の農耕活動

*狩野 彰宏1 (1.九州大学大学院比較社会文化研究院)

キーワード:石筍、完新世、縄文人

私の研究室ではU-Th年代をベースとした石筍研究を進め,後期更新世〜完新世の陸域での降水現象についての新たな知見を得てきた。その研究過程において,現在も滴下水を保持する石筍の多くが6000-4000年前に成長速度を低下もしくは停止させていることが分った。その原因は明らかに滴下水の低いCa濃度にある。方解石沈殿に必要な濃度(43 mg/L; Kano et al., 1998)を満たす滴下水は少ない。すなわち,6000-4000年前,全国的に滴下水のCa濃度が低下したと考えられる。
滴下水のCa濃度を一義的に支配するのは石灰岩の溶解が起こる土壌/石灰岩インターフェースでの二酸化炭素分圧である。根の呼吸や微生物の有機物分解により土壌中で発生する二酸化炭素の濃度は気温・降水量・植生に関連する。6000-4000年前に土壌二酸化炭素が低下したのであれば,その頃に気温低下,降水量減少,植生の減退のいずれかが起こったことになる。
比較的安定な完新世の気候を考えると,植生の減退が最もありえそうである。また,6000-4000年前という時期を考えると,日本国内に拡散した縄文人による農耕活動が原因であるかもしれない。縄文人は雨風や寒さをしのぐため石灰岩地帯の岩陰や洞窟の入口を好んで住居とした。そして焼畑農業を行い,豊富な森林植生を破壊したと考えられる。それにより土壌二酸化炭素濃度と滴下水Ca濃度が低下し,石筍の成長が減衰したのだろう。現段階でこの仮説を支持する証拠は少ないが,琵琶湖堆積物などで見られる完新世中期の微粒炭化物のピークは縄文人の農耕活動を暗示する。今後は,完新世中期の詳細な微粒炭化物や花粉分析に加え,遺跡から出土する木炭の放射年代測定を進めることが望まれる。
A. Kano, K. Sakuma, N. Kaneko and T. Naka (1998) Chemical properties of surface waters in the limestone regions of western Japan: Evaluation of chemical conditions for the deposition of tufas. Jour. Sci. Hiroshima Univ. Ser. C, 11, 11-22.