日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] 古気候・古海洋変動

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、中川 毅(立命館大学)、林田 明(同志社大学理工学部環境システム学科)

17:15 〜 18:30

[MIS17-P24] 近過去堆積物における珪藻化石群集と藻類バイオマーカーの相関性

*廣瀬 孝太郎1中村 英人2安藤 卓人2浅岡 聡1沢田 健2 (1.神戸大学 自然科学系先端融合研究環 内海域環境教育研究センター、2.北海道大学大学院 理学研究院 地球惑星科学部門)

キーワード:珪藻群集、藻類バイオマーカー、近過去堆積物、沿岸域、瀬戸内海、人為富栄養化

水域生態系において主要な一次生産者である微細藻類は,重要な環境要素の一つであり,同時に有用な環境指標でもある.そのため,微細藻類の時空間変化を明らかにすることは,水域の環境変遷やそれを駆動するシステムを解き明かす上で必須である.しかし,珪藻以外の微細藻類の多くは頑丈な殻をもたないため,堆積物に保存されるその生息情報は一部に限られる.近年,藻類の脂質に関する知見の蓄積や分析精度の向上により,分類群に固有の有機分子(バイオマーカー)に注目して,その動態を明らかにする研究が盛んになってきた.しかし,実際の群集とバイオマーカーの関係を議論した研究は殆どない.以上の背景から,本研究では,近代化にともなう人為富栄養化による珪藻群集の変化が報告されている瀬戸内海の大阪湾と播磨灘で表層コアを採取し,そのコアの珪藻分析とバイオマーカー分析を行い,両者を比較することで,その関係を検討した.それぞれのコア長は20 cmと40 cmで,これらを5 cmごとに分割して計12試料を分析に供した.コアの堆積年代は明らかではないが,近傍の地点での報告(たとえばYasuhara et al.,2007)から,過去数十年間程度と考えられる.
珪藻群集化石は,いずれの試料からも,小型のThalassiosira 属やNeodelphyneis pelagica 等,瀬戸内海の既往の報告(廣瀬ほか,2008)と共通した種が産出した.また総珪藻殻数は,コアを通して大阪湾のほうが播磨灘より多く,このことは生産量の違いを反映していると考えられる.また,大阪湾では,富栄養化を反映した鉛直分布に明瞭な傾向を示さなかったのに対し,播磨灘は,上位に向かって増加する傾向を示した.これに対し,バイオマーカーのうち,多くの微細藻類分類群が有するステロールから明らかに渦鞭毛藻由来である分子(Dinosterol)を除いた総量は,大阪湾より播磨灘の方が多く,またいずれも上位に向かって減少傾向で,珪藻化石とは異なる時空間分布を示した.一方で,珪藻の一部の分類群のみが有する高分枝鎖イソプレノイド(HBI)アルケンは,大阪湾と播磨灘での量比や鉛直変化において,珪藻化石と非常に類似した時空間分布を示した.これらのことは,珪藻殻とバイオマーカーの続成作用に対するバイアスの違いや,珪藻以外の微細藻類分類群の量的影響を反映していると考えられる.講演では,珪藻化石の分類群や,特定の分類群のみが有するバイオマーカー分子についても議論を行う.
引用文献:
Yasuhara et al., 2007., Limnol. Oceano. 69, 225-239.
廣瀬ほか,2008,第四紀研究.47,273-285.