日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS18] 海底マンガン鉱床の生成・環境・起源

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*臼井 朗(高知大学自然科学系理学部門)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)

17:15 〜 18:30

[MIS18-P07] テルル標準試薬中のテルル安定同位体組成

*深海 雄介1木村 純一1鈴木 勝彦1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:テルル、安定同位体、鉄マンガンクラスト

鉄マンガンクラスト等の海底に存在する鉄マンガン酸化物は地殻に対して一万倍以上ものテルル(Te)が濃集しており(Hein et al., 2010)、同じく高濃度で濃集しているコバルト、白金等も含めた将来的な鉱物資源として注目されている。地球化学的にも生成時の海洋環境の情報を保持した物質として重要である。近年、Teについて鉄マンガン酸化物に対する吸着構造が明らかにされている(Kashiwabara et al., 2014)。我々のグループでは、鉄マンガンクラスト等の成因について、微量元素の吸着構造やTe安定同位体組成の挙動を明らかにすべく分析手法の開発を行ってきた。このうち、Te安定同位体分析の研究例は、近年になって、ようやく、陸上鉱床由来の自然テルル等の報告例(Fornadel et al., 2014)や、隕石中のTe安定同位体組成の報告(Fehr et al., 2014)が行われたのみである。これらの研究においては、おのおのの実験室のin-house standard溶液をTe安定同位体分析のスタンダードとして使用している。そのため、異なる実験室同士の比較を行うための標準となるTe同位体標準試料は現在のところ存在しない。さらに、異なる製造元の試薬間や同一製造元から供給される別バッチの試薬間のTe同位体組成が均一であるかどうかの報告すら未だなされていないのが現状である。本研究では、複数の試薬中のTe同位体組成を明らかにするため、ダブルスパイクを用いたTe安定同位体分析手法を開発し、分析を行った。
Te安定同位体分析にはマルチコレクター型誘導結合プラズマ質量分析計(MC-ICPMS)を使用した。装置はJAMSTEC所有のNEPTUNE(Thermo Scientific社製)を用い、試料導入系として脱溶媒試料導入装置(Aridus II、CETAC社製)を使用した。分析装置内における質量差別効果の補正には、125Te–128Teスパイクによるダブルスパイク法を用いた。In-house standardとしてTe試薬(関東化学)を用いた実験の結果、1測定あたり11ngのTeを使用した分析の繰り返し再現性は、130Te/125Te比について0.2‰ (n =25:2SD)が得られた。比較測定試料として関東化学 (#40856-1B)、Alfa Aesar (#44632)、Sigma-Aldrich (#92027)の3社の元素標準試薬と、Alfa Aesarから供給されているTe lump (99.9999%, #10758)を用い、本研究で開発したTe同位体分析法を適用した。Sigma-Aldrich社の試薬は誤差の範囲で関東化学社の試薬と一致した。Alfa Aesar社の試薬は、関東化学社の試薬から1.2‰高い値を示した。Alfa Aesar社のTe lump中のTe同位体組成は、Alfa Aesar 社の試薬の値と誤差の範囲で一致した。 この結果から、試薬ごとにその原材料の安定同位体組成の差、もしくは製造過程における同位体分別を反映して異なる同位体組成を持つ事が明らかになった。このため、実験室ごとに異なる試薬をin-house standardとして使用した場合、Te同位体組成についての報告値に約1‰程度の偏差が存在することが明らかとなった。以上より、Te安定同位体を広く地球科学に応用するには、Te標準溶液を設定し、研究室間のキャリブレーションを行うことが必要である。