日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 火山噴煙・積乱雲のモデリングとリモートセンシング

2016年5月26日(木) 09:00 〜 10:30 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:*鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、前野 深(東京大学地震研究所)、佐藤 英一(気象研究所)、前坂 剛(防災科学技術研究所)、座長:佐藤 英一(気象研究所)、前野 深(東京大学地震研究所)

09:45 〜 10:00

[MIS26-04] 火山噴煙によるGNSS信号への影響について

上新 沙代1、*島田 誠一2竹内 章3 (1.富山大学理学部、2.東京大学大学院新領域創成科学研究科・株式会社日豊、3.富山大学大学院理工学教育部)

現在,GNSS連続観測システムGEONETのデータ波地殻変動などの測量や研究に利用されている.太田 他(2013)は,2014年7月24日に発生した桜島南岳における爆発的噴火を対象に,GPS精密単独測位法(PPP:Precise Point Positioning)を用いて搬送波位相残差を推定し,それらから噴火に伴う顕著な位相残差の増加を見出した.
本研究では,他の噴火イベントを対象に同様の噴煙柱検知手法によるLC位相残差の変化を推定し,LC位相残差が変化した要因について考察することを目的とした.対象とした噴火イベントは2015年5月29日9時59分(UTC0時59分)に口永良部島の新岳で発生した爆発的噴火である.
本研究では,国土地理院GEONETの観測点口永良部島においてGPS衛星データをGAMIT解析することでLC位相残差を算出し,顕著に変化した要因について考察した.その際,人工衛星ひまわりの画像により,噴煙が一旦火山体周辺に拡散して傘型噴煙を形成したのち,西北西-東南東方向へ流れたことを確認した.この噴煙の挙動とGAMIT解析の結果を照合したところ,PRN18,22,26からの電波は拡散した傘型噴煙を通過して観測点に到達し,PRN29の電波は噴煙柱を通過して到達していることが判明した.
口永良部島観測点におけるLC位相残差はPRN18,22,26,29が顕著な変化を示した.PRN18,22,26は20数cmの増加を示したが,PRN29は90秒後に-32cm減少,185秒後に42cm増加,350秒後にやや長時間にわたり20数cmの増加を示した.これらの変化は,山体北東山麓で記された気圧変化の異常な変化とほぼ同期していた。火山活動に伴ってこのように極端なLC位相残差の変動が検出されたのはこれが世界で初めての発見である.
噴煙柱を通過したPRN29のLC位相残差における短時間(それぞれ100秒間程度)の鋭い極小と極大の原因については,噴火開始直後の映像記録や気圧計システムの通信障害のタイミングから,急速な噴煙柱の形成に伴う空気の過膨張による急激な気圧の低下と回復および火山灰粒子の衝突による強い帯電やスパークの蓋然性が示唆された.したがってPRN18,22,26に見られた1分間程度の増加は,PRN29の極大と同期していたことから,拡散する傘型噴煙を通過したための,温度上昇や噴煙中の水蒸気による遅延が要因と考えられた.PRN29の長時間(800秒間程度)のブロードな増加は,その後の長時間の噴煙傘の拡散による温度上昇または水蒸気など火山ガス濃度の増加などの要因が考えられた.
本研究では,GNSS電波のLC位相残差変動と噴煙柱の成長・発達の事象との相関を示唆したが,LC位相残差を変化させた原因を明らかにするためには噴煙柱のダイナミクスとの関係について詳細な検討を行う必要がある.
引用文献:​太田雄策・井口正人・植木貞人,出町知嗣,2013,GNSSデータにもとづく噴煙柱検知方法の開発(序報) -2012年
7月24日桜島南岳火口における爆発的噴火への適用事例-,桜島火口における多項目観測に基づく火山噴火準備過程解明のための研究,平成24年度分報告書,55-58・島田 他,1998,気象学ノート第192号,日本気象学会,12,85,86・土屋 淳・辻 宏道,1997,新訂版 やさしいGPS測量,社会団体日本測量協会,234,256-259,266-271