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[MIS26-05] 台風201408号に伴う竜巻親雲の遷移過程
キーワード:レーダー観測、竜巻、スーパーセル
2014年7月10日午前6時20分ごろ、九州の西にあった台風201408号のアウターレインバンドが高知県を通過する際、高知平野の2か所で竜巻による突風被害が発生した(湯浅, 佐々, 2014)。これらの竜巻は親雲内の渦 (mc1,mc2)と対応していた (湯浅, 佐々, 2015a)。mc1の親雲は一般的なスーパーセルの気流構造とは反対向きの特異な気流構造を持ち、親雲後方からの気流により構造が維持されるミニスーパーセルであった。またmc2は、低気圧性シアーライン上の不安定性により発生した (湯浅, 佐々, 2015b)。しかし、渦上陸前後にはスーパーセルの特徴が見られなかった。そこで、このミニスーパーセルがノンスーパーセルにどのように遷移していったのかについて、レーダーデータ解析により調べた。
レーダー解析には、NICTアーカイブより取得した室戸ドップラーレーダーの極座標データを用い、気象研究所開発のDraftを用い解析を行った。風速分布の解析には、MSMの初期値データを京都大学生存圏アーカイブより取得し解析を行った。
図1に渦発生後の室戸レーダーPPI画像(仰角0.4deg.) を示す。mc1発生後mc2の発生時までは図1a, bのドップラー速度分布に見られるように、南西側から親雲に入り込むようなドップラー速度38m/s以上の気流が存在し、渦中心のすぐ南側にはV字型に切込まれた弱いエコー領域が認められた。また、その周辺には40dBZ以上の強エコー域がフック状に連なっていた。このときmc1の直径は10kmでメソサイクロンに相当していた。これらの特徴はスーパーセルの水平断面に対応するものであるが、一般的なものとはフックエコーの向きが逆であった。mc2発生後の5:45 JST (図1c)には渦径を急激に縮小させていた。渦の南側の強エコー域は親雲である強エコー域から離れ、フックエコーの形態は崩れた(図1c)。さらに渦上陸後(6:21 JST, 図1d)は南側の強エコー域は完全に衰弱していた。親雲周辺のドップラー速度分布には、東側が西側に比べて南風成分が強い低気圧性シアーが見られた。ここでは示していないが、MSMの6:00JST初期値の地上風速分布にはアウターレインバンド西側の南西風に比べ東側の南風が強い低気圧性シアー環境場にあることを示していた(湯浅, 佐々, 2015b)。
mc1付近の鉛直断面図を図2に示す。渦発生直後(図2a,b)はmc1周辺にヴォールト状構造が明瞭に確認できる。しかし南西側からヴォールトに向かう30m/s以上の強い気流は5:41JSTにはすでに弱まりつつあった。mc1の渦径が縮小した5:45 JST(図2c)にも強風域は残っていたが、反射強度にはヴォールト構造が見られず、エコー頂の位置もmc1からはずれていた。渦上陸後の鉛直断面(図2d)では、渦の西側に比べ東側のドップラー速度が強い低気圧性水平シアーは見られたが、スーパーセルの特徴は完全に失われていた。
このようなことから、mc1発生時の親雲は、後方からの気流の流入でメソサイクロンとヴォールト構造をもつミニスーパーセルの形態であった。その後、親雲後方からレインバンドに向かう気流の流入が弱くなり、スーパーセルの形態が崩れた。しかし、レインバンド内の低気圧性水平シアーによって2つの渦は上陸まで持続した。すなわち、一般に知られているノンスーパーセル竜巻の発生過程(Wakimoto and Wilson, 1989) と異なり、ミニスーパーセルが衰退した後アウターレインバンド内の水平シアーにより渦が持続される特異な特徴を示していた。
レーダー解析には、NICTアーカイブより取得した室戸ドップラーレーダーの極座標データを用い、気象研究所開発のDraftを用い解析を行った。風速分布の解析には、MSMの初期値データを京都大学生存圏アーカイブより取得し解析を行った。
図1に渦発生後の室戸レーダーPPI画像(仰角0.4deg.) を示す。mc1発生後mc2の発生時までは図1a, bのドップラー速度分布に見られるように、南西側から親雲に入り込むようなドップラー速度38m/s以上の気流が存在し、渦中心のすぐ南側にはV字型に切込まれた弱いエコー領域が認められた。また、その周辺には40dBZ以上の強エコー域がフック状に連なっていた。このときmc1の直径は10kmでメソサイクロンに相当していた。これらの特徴はスーパーセルの水平断面に対応するものであるが、一般的なものとはフックエコーの向きが逆であった。mc2発生後の5:45 JST (図1c)には渦径を急激に縮小させていた。渦の南側の強エコー域は親雲である強エコー域から離れ、フックエコーの形態は崩れた(図1c)。さらに渦上陸後(6:21 JST, 図1d)は南側の強エコー域は完全に衰弱していた。親雲周辺のドップラー速度分布には、東側が西側に比べて南風成分が強い低気圧性シアーが見られた。ここでは示していないが、MSMの6:00JST初期値の地上風速分布にはアウターレインバンド西側の南西風に比べ東側の南風が強い低気圧性シアー環境場にあることを示していた(湯浅, 佐々, 2015b)。
mc1付近の鉛直断面図を図2に示す。渦発生直後(図2a,b)はmc1周辺にヴォールト状構造が明瞭に確認できる。しかし南西側からヴォールトに向かう30m/s以上の強い気流は5:41JSTにはすでに弱まりつつあった。mc1の渦径が縮小した5:45 JST(図2c)にも強風域は残っていたが、反射強度にはヴォールト構造が見られず、エコー頂の位置もmc1からはずれていた。渦上陸後の鉛直断面(図2d)では、渦の西側に比べ東側のドップラー速度が強い低気圧性水平シアーは見られたが、スーパーセルの特徴は完全に失われていた。
このようなことから、mc1発生時の親雲は、後方からの気流の流入でメソサイクロンとヴォールト構造をもつミニスーパーセルの形態であった。その後、親雲後方からレインバンドに向かう気流の流入が弱くなり、スーパーセルの形態が崩れた。しかし、レインバンド内の低気圧性水平シアーによって2つの渦は上陸まで持続した。すなわち、一般に知られているノンスーパーセル竜巻の発生過程(Wakimoto and Wilson, 1989) と異なり、ミニスーパーセルが衰退した後アウターレインバンド内の水平シアーにより渦が持続される特異な特徴を示していた。