日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 火山噴煙・積乱雲のモデリングとリモートセンシング

2016年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:*鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、前野 深(東京大学地震研究所)、佐藤 英一(気象研究所)、前坂 剛(防災科学技術研究所)、座長:鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、前坂 剛(防災科学技術研究所)

10:45 〜 11:00

[MIS26-07] 火砕噴火後のテフラ分布調査の現状と課題

★招待講演

*宮縁 育夫1 (1.熊本大学教育学部)

キーワード:火砕噴火、テフラ分布、噴出物量

テフラの分布や噴出物量は火砕噴火の様式や規模を決定する上で重要な要素である.しかしながら,その調査方法は極めて古典的であり,しかも高精度のデータを得るためにはさまざまな問題点が存在する.本発表では,筆者がこれまで霧島火山や阿蘇火山等で行ってきた噴火発生直後のテフラ調査の事例を紹介して,その実態を報告するとともに,浮かび上がってきた問題点を提示する.
霧島火山新燃岳2011年噴火は最近10年間ではわが国において最大級の噴火であった.1月26日~27日には複数回の準プリニー式噴火が起こり,20 km以上離れた地域にまでテフラが飛散した.筆者は噴火発生直後に調査を行うとともに,数か月経過してからも追加調査を実施したが,堆積物が比較的よく保存されており,詳細なテフラ分布が把握できただけでなく,細分した降下ユニットごとの追跡と対比も可能であった.とくに1月26日夕方~27日朝にかけての準プリニー式噴火に関しては,層厚分布と最大粒径分布の主軸方向が異なっていることも見出され(Miyabuchi et al., 2013),このことは噴煙シミュレーション結果(Suzuki et al., 2013)とも調和的であった.しかしながら,筆者は2.5 kmより遠方域でしか調査を行えなかったため,算出された噴出物量が他の調査事例に比べて1桁少ない値であった.噴火直後に火口近傍域において層厚や単位面積重量の測定ができないことにより,算出される噴出物量が過小評価されるという大きな問題点が判明した.
阿蘇火山中岳では,1989~1995年の活発な活動の後,湯だまりと呼ばれる火口湖が形成されるなど比較的穏やかな状態が続いていたが,2003年のごく小規模な噴火から2014年以降の本格的なマグマ噴火まで,さまざまな規模の噴火が発生し,そのたびごとに噴出物調査を行う機会があり(Miyabuchi et al., 2008),テフラ調査に関する実践力を高めることができた.まず2003年頃には直径10 cm程度の火山灰採取容器を多地点に設置して火山灰の採取を試みたが,径が小さくて捕捉率が低く,実用に耐えないことが判明した.実際,2003年7月の小噴火時には人工物上に堆積した火山灰を採取する方が効率的であることに気づいた.しかし,人工物がない場所に関しては,植物の葉に付着した火山灰が確認できるくらいで,全般的には新たに堆積した火山灰の認定が難しいという問題にも直面した.一方で,2004年1月には積雪が存在する状態での降灰調査を経験し,そうした状況下では微量の火山灰でも採取可能であることがわかったが,降雪のない地域や春から秋の噴火ではこの方法での火山灰認定は難しい.
中岳における2014年11月からの本格的なマグマ噴火では,活動開始直後に人工物上に堆積した火山灰を40箇所以上で採取して何本かの等質量線を描いて,最初期の火山灰分布と噴出物量を見積もることができた.しかし,その後も小規模な火山灰噴出が継続したため,ある期間だけの火山灰を分離して採取することの難しさを痛感して,同年12月上旬には降灰トラップ(直径25 cmの火山灰採取容器)による調査に切り替えた.降灰トラップはできるだけ多くの地点や方向に設置することが望ましいが,回収する労力に限界がある.そこで,トラップの位置や数をどのように設置するかを模索し,阿蘇火山中岳で発生するような小規模噴火で効率的に火山灰分布と噴出物量を把握できる火山灰観測網を考案した.
そうした降灰観測システムは構築できたが,火山灰回収作業が道路網に規制されるという問題点も浮き彫りになった.中岳のように,多くの場合風下側となる火口東方域が山岳地域で登山道しかないような場合には現地調査に大きな制限を受ける.徒歩での回収も考えたが,一人での調査でもあるので,時間的にも労力的にも無理であった.さらに,噴火の危険性等により火口近傍のトラップは回収できない事例も多々あった.実際に1 kmよりも遠方域だけのデータを使用した際と火口近傍域のデータも使用して算出した噴出物量を比較した結果,平均して後者が前者の1.4倍の量になることがわかった.また,2015年10月23日噴火のようにほとんど無風状態の場合,火口近傍域にしか堆積物が分布しないという珍しい事例(1 km以遠のトラップでは火山灰が捕捉できない事例)もあった.同年9月14日発生の火砕密度流堆積物も火口近傍域にしか分布しておらず,同じような状況であった.こうしたことは,霧島火山新燃岳噴火の事例と同様に,火口近傍域において噴出物データが取得できるかどうかで,その後の噴出物量計算結果に大きな影響を与えることを示している.
以上述べたように,噴火直後のテフラ調査には多くの課題が存在するものの,現地調査に基づく方法でしか噴出物の分布や量を把握できないというのが現状である.しかし,火口近傍調査時の安全上の問題は将来的にも解決が難しいため,今後は噴煙シミュレーション結果と比較できる事例を数多く積み重ねていくとともに,噴煙シミュレーション技術の発展を期待したい.