日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 火山噴煙・積乱雲のモデリングとリモートセンシング

2016年5月26日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、前野 深(東京大学地震研究所)、佐藤 英一(気象研究所)、前坂 剛(防災科学技術研究所)

15:30 〜 16:45

[MIS26-P05] デジタルカメラ画像を利用した火山噴煙の噴火開始検知アルゴリズムの開発

齊藤 雅典1、*松本 恵子2柳田 泰宏2久利 美和3 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻、2.東北大学大学院理学研究科地学専攻、3.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:噴煙、デジタルカメラ、準リアルタイム

活動的火山の噴火現象の準リアルタイムモニタリングは,噴火現象の理解のためにも,また火山関連災害を減らすためにも重要である.しかし噴火発生時は立ち入り規制が敷かれるため,新たな観測点の設置は困難である.そこで本研究では,火口周辺に即時展開可能で簡便な小型火山観測装置に実装できる観測システム開発を目指し,一般的な可視領域のデジタルカメラから逐次取得した画像データを用いて,火山噴火の発生検知と噴煙域を判別するアルゴリズムを開発した.さらに,阿蘇山の2015年9月14日噴火の画像に対してアルゴリズムを検証した.
一般に,画像から対象を判別するには,統計的に決定された閾値を用いる方法が使われている.しかし,最適な閾値は大気の状態や太陽の位置などによって異なるため,固定した閾値による誤判別が生じる.そこで本研究では,画像から取り出したデジタル値を光学理論に基づいた物理パラメータに変換し,画像ごとに噴煙判別の最適な閾値を設定して対象を判別するアルゴリズムを開発した.特徴は,統計的な値を得るための事前データが不要で,またそれを用いることによるデータの偏りの影響がない点である.本研究で開発したアルゴリズムは2つのステップを要する.まず,入力画像(JPEG)から取り出したRGB値を,輝度を示すIntensity Index,及び散乱の波長依存性を示すSmall Particle IndexとMolecular Indexに変換する.これにRGBを加えた6つのパラメータから,固定した閾値を用いて晴天・雲域・噴煙域の判別が可能になった.次に,前後の時間の画像の噴煙域面積の時間微分から「噴火開始」を検知する.検知できた場合,新たに噴煙域として拡大した画素から物理パラメータを取得し,噴煙判別の最適な閾値を構築する.この画素における誤判別は非常に少ないことを確認した.このようなプロセスで,最適な閾値を逐次設定して,すべての画像に対して噴煙判別を行った.
開発したアルゴリズムを,阿蘇山の2015年9月14日噴火の気象庁の噴煙画像(9時4分~10時8分まで,2分おき)に適用した.定常的な白色噴煙を放出する状態(9時44分時点まで)では,解析画像は噴火活動が平穏である青色を表示した.一方,9時46分の画像では「噴火開始」を検知し,噴煙に該当する部分を赤色,それ以外に該当する部分を白色で表示できた.噴煙が発達している間は,噴煙域の時間変化に設定した閾値以上であれば噴煙域を赤色表示し続けた.しかし,噴煙が画像全体を覆ってしまって噴煙域の時間変化が閾値以下になると青色表示に戻った.気象庁は9時43分に噴火が発生したと発表しているものの,対応する画像では9時44分までは定常的な噴煙を上げていて,灰色の噴煙が噴出したのは9時46分である(検知した「噴火開始」).従って本手法は,画像のみから噴火の遷移や噴火の開始を検知するのに適していると言える.また,未噴火から噴火開始を検知できるだけでなく,阿蘇のように定常的に噴煙を放出している噴火から爆発的噴火への遷移を検知できることも本アルゴリズムの特徴である.さらに今回は一枚の画像の解析に要する計算時間が1秒程度であるので,準リアルタイム解析が可能なシステムと言える.
現在,無人ヘリで運搬可能な小型火山観測装置にデジタルカメラを実装して試験運用しており,今後は,実際に取得した画像を本アルゴリズムで解析して火山活動を判断したいと考えている.