日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 火山噴煙・積乱雲のモデリングとリモートセンシング

2016年5月26日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、前野 深(東京大学地震研究所)、佐藤 英一(気象研究所)、前坂 剛(防災科学技術研究所)

15:30 〜 16:45

[MIS26-P06] 噴煙柱崩壊に伴う火砕流の2層浅水波モデル計算

*志水 宏行1小屋口 剛博1鈴木 雄治郎1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:火砕流、浅水波モデル、2層流モデル、数値シミュレーション、噴煙柱崩壊、火砕流堆積物

爆発的火山噴火では,噴煙柱の崩壊によって生じる火砕流がしばしば観察される.火砕物粒子と火山ガスから成る火砕流は,周囲大気との密度差を駆動力に地表面を流動する重力流として振る舞う.火砕流の内部には,粒子濃度の低い上部領域(低密度部)と粒子濃度の高い底部領域(高密度部)から成る密度成層が発達する.火砕流の拡大速度や到達距離といったダイナミクスは,各領域における物理過程(例えば,周囲大気の取り込みや地表面との摩擦)や領域間の相互作用(例えば,沈降に伴う粒子の領域間移動)の影響を受ける.本研究では,火砕流ダイナミクスに対するこれらの影響を,重力流の流体力学的理論に基づく数値シミュレーションによって定量化し理解することを目的とする.
密度成層をもつ火砕流を表現するために,本研究では,低密度部と高密度部から成る2層流モデルを開発した.2層それぞれを浅水波方程式に基づいて定式化し,HLL数値流束を用いた有限体積法に基づいてそれらを離散化した.低密度部では,粒子の沈降・上面からの周囲大気の取り込み・下面での高密度部から受ける抵抗を考慮した.高密度部では,地表面との摩擦・低密度部からの粒子の供給・粒子の堆積作用を考慮した.また,浅水波方程式に基づいて重力流の振る舞いを解くためには,流れの先端において,流れの駆動力と周囲流体から受ける抵抗の力学的バランスを正確に計算することが重要であり,流れの密度によってその数値的取り扱いが異なる(志水ほか, 2015, JpGU).低密度部では,先端部にその力学的バランスを境界条件として与えた.一方,高密度部では,先端よりも先の領域に厚さが十分に薄く静止した仮想流体層を与えることによって,その力学的バランスを近似的に計算した.
単発的な噴煙柱崩壊による火砕流を想定した数値シミュレーションを行った.低密度部のみから成る静止した流体を矩形で与え,それが時間t=0において開放された際の水平面上での時間発展を観察した.計算の結果,初期に静止していた低密度部が重力流として発達する様子を捉えた.低密度部からの沈降粒子が供給されることで高密度部が発達し,その高密度部も重力流として拡大した.さらに,高密度部の粒子が沈降し,地表面に堆積層を形成した.粒子の沈降速度が高密度部や堆積層の発達に与える影響を調べるため,粒径を変えた計算を行った.粒径が小さい場合,低密度部から高密度部への粒子供給率は小さくなり,高密度部はあまり発達しなかった.その結果,高密度部の拡大速度は低密度部よりも小さく,高密度部は低密度部を追従するレジームとなった.一方,粒径が大きい場合,低密度部から高密度部への粒子供給率が大きくなり,高密度部が著しく発達した.その結果,高密度部の拡大速度は低密度部よりも大きく,高密度部が低密度部に先行するレジームとなった.これらのレジームの違いは,火砕流堆積物の最下層が低密度部と高密度部のどちらによって形成されるかを決めるため,野外観察で見られる堆積構造の多様性を説明する可能性がある.