日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS33] 地球惑星科学と微生物生態学の接点

2016年5月23日(月) 09:00 〜 10:25 106 (1F)

コンビーナ:*砂村 倫成(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、濱村 奈津子(九州大学)、諸野 祐樹(海洋研究開発機構高知コア研究所)、座長:砂村 倫成(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、濱村 奈津子(九州大学)

09:20 〜 09:35

[MIS33-02] 付加体の深部帯水層におけるCH4とN2の生成プロセスの地域特性

*松下 慎1石川 修伍2平田 悠一郎2眞柄 健太2木村 浩之3 (1.静岡大学創造科学技術大学院環境・エネルギーシステム専攻、2.静岡大学総合科学技術研究科、3.静岡大学グリーン科学技術研究所)

キーワード:付加体、深部帯水層、メタン生成菌、発酵細菌、脱窒

天然ガス田やメタンハイドレードに代表される地下圏において生成されるメタンは大気中に放出されることで温暖化を促進させる温室効果ガスである一方、エネルギー資源としての利用が期待されている。そのため、地下圏におけるメタン生成プロセスの把握は重要な研究課題であるといえる。地下圏で生成されるメタンの起源として、堆積層に含まれる有機物が熱によって分解され、メタンが生成される熱分解起源と、メタン生成菌による微生物起源の2つが主に知られている。現在までに行われた研究によって、油田やガス田、海底堆積物中などに存在するメタンの生成プロセスが解明されてきた。また、西南日本をはじめ、台湾、インドネシア、ペルー、チリ、ニュージーランド、米国ワシントン州、米国アラスカ州などの世界中の国や地域に分布が見られる付加体の地下圏においても大量のメタンの存在が報告されている。
付加体は、プレートテクトニクスによってプレートの沈み込みが起きている海溝において形成される厚い堆積層である。この堆積層は、海洋プレートが陸側プレートの下に沈み込む際に、海洋プレート上部の海底堆積物がはぎ取られ、陸側プレートに付加することによって形成される。そのため、海底堆積物に由来する豊富な有機物が堆積層中に含まれている。西南日本の太平洋沿岸の広い地域には深さ10 km以上にわたって付加体の堆積層が分布している。この堆積層は透水性の高い砂岩の層を含むことから、天水または海水に由来する地下水が嫌気的に貯留された深部帯水層が存在している。さらに、この深部帯水層には嫌気性地下水と共に、メタンや窒素ガス(N2)を主成分とする水溶性天然ガスが豊富に存在することが報告されている。しかし、付加体の深部帯水層におけるメタンとN2の生成プロセスに関する知見はほとんど得られていない。そこで、本研究では付加体が分布する静岡県中西部の太平洋沿岸部から山間部の地域に構築された14か所の大深度掘削井において、深部帯水層に由来する嫌気性地下水と地下水に付随する付随ガスを採取した。そして、付随ガスの組成分析、及び炭素安定同位体比分析により、深部帯水層に存在するメタンの起源推定を行った。さらに、地下水に含まれる微生物群集を対象としたメタ16S rRNA遺伝子解析及び嫌気培養を実施し、深部帯水層におけるメタン生成プロセス及びN2生成プロセスの解明を試みた。
付随ガスの組成分析を行った結果、太平洋沿岸部に位置するサイトと、沿岸部と山間部の中間に位置するサイトから採取した付随ガスにはメタンが96%以上含まれていることが明らかになった。一方、山間部に位置するサイトから採取した付随ガスには、メタンと共に20~50%の割合でN2が含まれていた。付随ガス中のメタンと地下水中の溶存無機炭素の炭素安定同位体比分析の結果、沿岸部のサイトでの付随ガスには有機物の熱分解起源のメタンが、中間部と山間部のサイトでの付随ガスには微生物起源のメタンが主に含まれていることが示唆された。地下水中の微生物群集を対象としたメタ16S rRNA遺伝子解析の結果、MethanobacterialesMethanomicrobialesに属する水素資化性メタン生成菌、FirmicutesBacteroidetesに属する発酵細菌、Betaproteobacteriaに属する脱窒細菌が優占することが確認された。また、中間部と山間部のサイトから採取した地下水に有機基質を添加した嫌気培養を実施した結果、水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌の共生による高いメタン生成ポテンシャルが確認された。さらに、山間部のサイトから採取した地下水に、有機基質と共に脱窒の電子受容体であるNO3-またはNO2-を添加して嫌気的に培養を行った結果、微生物の脱窒による高いN2生成ポテンシャルが示された。
本研究の結果より、西南日本の太平洋沿岸部の付加体の深部帯水層では、有機物の熱分解によるメタン生成が行われていることが示唆された。一方、中間部と山間部の付加体の深部帯水層では、水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌が共生することで、堆積層に含まれる有機物が分解され、メタンが生成されていることが明らかとなった。また、山間部の付加体の深部帯水層では、微生物群集によるメタン生成と同時に、微生物の脱窒によるN2生成が行われている可能性が示された。