日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS33] 地球惑星科学と微生物生態学の接点

2016年5月23日(月) 09:00 〜 10:25 106 (1F)

コンビーナ:*砂村 倫成(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、濱村 奈津子(九州大学)、諸野 祐樹(海洋研究開発機構高知コア研究所)、座長:砂村 倫成(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、濱村 奈津子(九州大学)

09:35 〜 09:50

[MIS33-03] 沖縄本島南部に分布する付加体の深部帯水層におけるメタン生成メカニズム

*眞柄 健太1松下 慎2石川 修伍3平田 悠一郎1木村 浩之4 (1.静岡大学理学部地球科学科、2.静岡大学創造科学技術大学院環境・エネルギーシステム専攻、3.静岡大学総合科学技術研究科、4.静岡大学グリーン科学技術研究所)

キーワード:付加体、深部帯水層、メタン生成、発酵細菌、メタン生成菌、共生コンソーシア

西南日本の太平洋側の地域には付加体と呼ばれる厚い堆積層が分布している.付加体はプレートの収束境界において,海洋プレートが陸側プレートに沈み込む際,海洋プレート上の海底堆積物がはぎ取られ,大陸プレートの側面に付加することで形成された地質構造である.付加体の堆積層は主に砂層と泥層の互層構造からなり,その地下圏には帯水層が形成されている.そして嫌気状態となった深部帯水層にはメタンを主成分とする多量の天然ガスが存在している.静岡,宮崎,沖縄に構築された大深度掘削井から揚水される深部地下水の付随ガスからは高濃度のメタンが検出される.しかし,これらの帯水層の特性はそれぞれ異なる.静岡には天水の影響を強く受けている帯水層が存在する.宮崎には貫入岩の影響を受けていると予想される深部帯水層が存在する.そして,沖縄本島は周囲を海に囲まれているため,その深部帯水層は海水の影響を強く受けていると予想される.静岡と宮崎の深部帯水層では,水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌による堆積層中の有機物の分解を通したメタン生成メカニズムが存在することが報告されている.一方,沖縄本島の深部帯水層におけるメタン生成メカニズムに関する知見はほとんど得られていない.そこで,本研究では付加体の分布する沖縄本島南部の4カ所の大深度掘削井にて,深部帯水層に由来する嫌気性地下水と付随ガスを採取した.そして,地下水の電気伝導率(EC)と溶存イオン濃度から深部地下水の起源の推定を行った.また,付随ガスの組成分析および付随ガス中のメタンと地下水中の溶存態無機炭素の炭素安定同位体比分析から,深部帯水層に存在するメタンの起源を推定した.さらに,深部地下水に含まれる微生物群集を対象としたメタ16S rRNA遺伝子解析および嫌気培養を行い,沖縄本島南部の深部帯水層におけるメタン生成メカニズムの解明を試みた.
地下水のECと溶存イオン濃度から,沖縄本島には海水の影響を受けている深部帯水層と,海水と天水の両方の影響を受けている帯水層が存在することが示された.付随ガスの組成分析の結果,全てのサイトでメタンが93 vol%以上含まれていることが明らかとなった.付随ガスに含まれるメタンと地下水に含まれる溶存態無機炭素の炭素安定同位体比分析から,全てのサイトで付随ガスには微生物起源のメタンが含まれていることが示唆された.地下水中の微生物群集を対象としたメタ16S rRNA遺伝子解析では,アーキアにおいて全サイトの地下水でMethanobacterialesに属する水素資化性メタン生成菌が確認された.また,バクテリアではFirmicutesBacteroidetesに属する発酵細菌が確認された.さらに,地下水に含まれる微生物群集を対象とした嫌気培養を行った結果,全てのサイトで水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌の共生による高いメタン生成ポテンシャルが確認された.
本研究によって,沖縄本島南部に分布する付加体の深部地下圏には海水の影響を強く受けた帯水層と,海水と天水の両方の影響を受けた帯水層が存在することが示された.また,沖縄本島南部に分布する付加体の深部帯水層では,水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌の共生による有機物からのメタン生成が行われていることが示唆された.さらに,西南日本の広大な地域に分布する付加体の深部帯水層において,地下圏微生物によるメタン生成が普遍的に行われている可能性が示唆された.