11:05 〜 11:20
[MIS34-07] 経験的グリーン関数を用いた波形インバージョンによる2016年熊本地震の破壊過程
キーワード:2016年熊本地震、破壊過程、経験的グリーン関数、波形インバージョン、強震動
経験的グリーン関数を用いた波形インバージョンにより2016年熊本地震(本震)の破壊過程を推定した.対象周波数は0.2-2Hzとした.グリーン関数としては,本震とのメカニズム(www.fnet.bosai.go.jp)の類似性の他,本震波形とのフーリエ位相特性の類似性を考慮し,前震と本震の間に生じた二つの小地震(図のEGF1とEGF2)の記録を併用した.用いるデータとしては,断層面上におけるすべりの時空間分布を効果的に拘束するため,震源断層に近い観測点を積極的に採用し,震源断層を取り囲む8地点でのデータを用いた.KiK-net観測点では,表層地盤の非線形挙動の影響が相対的に小さいと考えられる地中の記録を用いた.これらの地点におけるEW成分とNS成分の速度波形(0.2-2Hzの帯域通過フィルタを適用した波形),計16成分をインバージョンのターゲットとした.インバージョンには本震波形のS波を含む15秒間を用いた.
インバージョンで仮定した断層面は,気象庁による本震の震源(北緯33.753°,東経130.762°,深さ12.0km)を含むように設定し,走向は226°,傾斜は84°,長さ40km,幅20kmとした.走向と傾斜はF-netによる本震のメカニズム解と一致するように定めた.断層面のうち,南西側の長さ16kmの部分の寄与を計算する際には4/15 0:50の地震(EGF1)の波形を用い,北東側の長さ24kmの部分の寄与を計算する際には4/15 15:27(EGF2)の波形を用いた.
インバージョンはHartzell and Heaton(1983)の方法に基づいている.40km×20kmの断層を20×10の小断層に分割し,それぞれの小断層でのモーメントレート関数は,小地震のモーメントレート関数とインパルス列との合積で表されると仮定した.インパルス列は0.25秒間隔の12のインパルスからなるものとし,このインパルスの高さをインバージョンの未知数とした.したがって破壊フロント通過後の3.0秒間だけすべると仮定したことになる.破壊フロントは,気象庁の破壊開始点から同心円状に速度2.5km/sで広がるものとした(2.5km/sのときが最も残差が小さくなった).基盤のS波速度は3.55km/sとした.インバージョンには非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用いた.また,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.
インバージョンに用いた観測点(図の▲)における観測波(黒)と合成波(赤)の比較(0.2-2Hzの速度波形)を図に示す.これらの図において長方形で示した部分がインバージョンに用いた区間(15秒間)である.観測波の特徴は多くの地点で良好に再現されている.
図にインバージョンの結果として得られた最終すべり量の分布を示す(南東側から見た図を示している).図に示すように,破壊開始点よりも南西側ではすべりの大きい部分は無く,破壊開始点とKMMH16の間ではすべりの大きい部分は深部にしか無い.破壊開始点より20~25km東で浅部・深部ともにすべり量が大きい.小地震のモーメントとしてF-netによる値(EGF1が3.86×1015Nm,EGF2が1.92×1015Nm)を用いると,図に示す本震の最終すべり量の分布はMW=7.2に相当する.なお,最大すべり速度の分布は基本的に最終すべり量分布と類似していた.
ここで得られた結果を,同じ地震を対象とした別の波形インバージョン結果と比較してみると,互いに整合する部分と整合しない部分があるが,例えば浅野他の結果(http://sms.dpri.kyoto-u.ac.jp/k-asano/pdf/2016KumamotoEQ_v20160417.pdf)と比較すると,断層面の南西側では主に深部がすべっており,断層面の北東側では深部と浅部がすべっているという点では,互いに結果が類似している.使用したグリーン関数は本研究が経験的グリーン関数で浅野他が水平層構造の理論的グリーン関数,使用した観測点は本研究は震源近傍が多く浅野他はやや離れた地点が多いという違いがあるにも関わらず類似した結果に至ったことから,これらの震源モデルにより破壊過程の重要な部分は捉えられていると考えている.
また,破壊開始点とKKMH16(益城)の間にアスペリティが来る結果とはならなかった.したがって本震における益城の大振幅地震動をforward directivityによるものと解釈することには無理がある.
謝辞:本研究では防災科学技術研究所のK-NETの強震記録,F-NETのCMT解,気象庁の震源データを使用しています.ここに記して謝意を表します.
インバージョンで仮定した断層面は,気象庁による本震の震源(北緯33.753°,東経130.762°,深さ12.0km)を含むように設定し,走向は226°,傾斜は84°,長さ40km,幅20kmとした.走向と傾斜はF-netによる本震のメカニズム解と一致するように定めた.断層面のうち,南西側の長さ16kmの部分の寄与を計算する際には4/15 0:50の地震(EGF1)の波形を用い,北東側の長さ24kmの部分の寄与を計算する際には4/15 15:27(EGF2)の波形を用いた.
インバージョンはHartzell and Heaton(1983)の方法に基づいている.40km×20kmの断層を20×10の小断層に分割し,それぞれの小断層でのモーメントレート関数は,小地震のモーメントレート関数とインパルス列との合積で表されると仮定した.インパルス列は0.25秒間隔の12のインパルスからなるものとし,このインパルスの高さをインバージョンの未知数とした.したがって破壊フロント通過後の3.0秒間だけすべると仮定したことになる.破壊フロントは,気象庁の破壊開始点から同心円状に速度2.5km/sで広がるものとした(2.5km/sのときが最も残差が小さくなった).基盤のS波速度は3.55km/sとした.インバージョンには非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用いた.また,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.
インバージョンに用いた観測点(図の▲)における観測波(黒)と合成波(赤)の比較(0.2-2Hzの速度波形)を図に示す.これらの図において長方形で示した部分がインバージョンに用いた区間(15秒間)である.観測波の特徴は多くの地点で良好に再現されている.
図にインバージョンの結果として得られた最終すべり量の分布を示す(南東側から見た図を示している).図に示すように,破壊開始点よりも南西側ではすべりの大きい部分は無く,破壊開始点とKMMH16の間ではすべりの大きい部分は深部にしか無い.破壊開始点より20~25km東で浅部・深部ともにすべり量が大きい.小地震のモーメントとしてF-netによる値(EGF1が3.86×1015Nm,EGF2が1.92×1015Nm)を用いると,図に示す本震の最終すべり量の分布はMW=7.2に相当する.なお,最大すべり速度の分布は基本的に最終すべり量分布と類似していた.
ここで得られた結果を,同じ地震を対象とした別の波形インバージョン結果と比較してみると,互いに整合する部分と整合しない部分があるが,例えば浅野他の結果(http://sms.dpri.kyoto-u.ac.jp/k-asano/pdf/2016KumamotoEQ_v20160417.pdf)と比較すると,断層面の南西側では主に深部がすべっており,断層面の北東側では深部と浅部がすべっているという点では,互いに結果が類似している.使用したグリーン関数は本研究が経験的グリーン関数で浅野他が水平層構造の理論的グリーン関数,使用した観測点は本研究は震源近傍が多く浅野他はやや離れた地点が多いという違いがあるにも関わらず類似した結果に至ったことから,これらの震源モデルにより破壊過程の重要な部分は捉えられていると考えている.
また,破壊開始点とKKMH16(益城)の間にアスペリティが来る結果とはならなかった.したがって本震における益城の大振幅地震動をforward directivityによるものと解釈することには無理がある.
謝辞:本研究では防災科学技術研究所のK-NETの強震記録,F-NETのCMT解,気象庁の震源データを使用しています.ここに記して謝意を表します.