日本地球惑星科学連合2016年大会

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セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS34] 2016年熊本地震および関連する地殻活動

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

17:15 〜 18:30

[MIS34-P70] スペクトルインバージョン法で求めた前震・本震・余震の震源スペクトルと非線形サイト特性

*仲野 健一1川瀬 博2 (1.株式会社 安藤・間、2.京都大学防災研究所)

キーワード:スペクトルインバージョン、震源スペクトル、非線形サイト特性

2016年4月14日21:25に熊本県熊本地方を震源とする地震(MJMA 6.5)が発生し、その後4月16日1:26には先のものより規模が大きい地震(MJMA 7.3)が発生した(気象庁は総称として平成28年熊本地震としている)。ここでは前者を前震、後者を本震として区別する。これらの余震分布を確認すると、地震調査研究推進本部が長期評価を行った日奈久断層帯の一部と布田川断層帯に領域に集中しており、平成28年熊本地震はこれらの活断層帯が複雑に連動して発生したものと推測される。また、前震と本震で計測震度7が熊本県震度計ネットワークによって計測された益城町や西原村などでは木造住宅を中心とした甚大な被害が発生した。消防庁は、5月11日11:00時点で、人的被害としては死者68名、重症を含む負傷者1,656名、住宅被害としては全壊2,654棟、一部損壊を含む半壊は32,400棟と報告している(第50報:http://www.fdma.go.jp/bn/2016/detail/943.html)。

防災科学技術研究所のK-NET・KiK-netでは前震や本震の強震波形が多数の観測地点で観測され、即時公開された。また、気象庁の震度ネットワークで観測された強震波形も公開され、従来に比べてより震源近傍のデータが多く得られており震源インバージョン等に活用されている。現地調査報告によれば、地盤変状に伴う建物被害が多く見受けられるが、基礎に損壊がなくても上部構造が倒壊している建物も少なからず存在している。また、KiK-net益城(KMMH16)等で観測された強震波形が1~2秒震度で7と推定されていること(境有紀:http://www.kz.tsukuba.ac.jp/~sakai/s1605s.htm)を勘案すると、地盤変状に加えて強震動(前震と本震および余震)が複合的に作用して建物が倒壊・損壊する等甚大な被害が生じたと推察される。今後、地表面に現れた断層運動に関する調査研究を進めると共に強震動を生成した要因(震源や地盤など)に関する詳細な検討を行い、建物被害調査結果と照らし合わせた上での慎重な議論が必要であると考えられる。建物被害調査については諸学会による調査結果の公開を待つ必要があるが、平成28年熊本地震およびその余震で観測された強震波形は上記のように公開されている。そこで、本研究では公的機関(K-NET、KiK-net)で公開された強震波形を用いて、スペクトルインバージョン解析を実施し、平成28年熊本地震の震源特性やサイト特性に関する知見の蓄積を行う。

インバージョン解析で対象とする地震は、K-NET、KiK-netおよび気象庁で公開されていて、Nakano et al.(2015)の解析条件を満足するものを選定した。主な解析条件は地震モーメントM0がMj4.5以上、震源距離200km以内、震源深さについては地殻内地震では30km以浅である。また地震発生時刻や震源位置等の震源情報はHi-netの一元化震源データベースから、地震モーメントM0はF-netによる解析結果を用いた。解析条件および方法の詳細はNakano et al.(2015) を参照されたい。選定の結果、平成28年熊本地震の前震と本震およびその余震で上記条件に合致するのは2016年4月20時点で25イベントであった。本検討では、Nakano et al.(2015)のデータセットにそれらのイベントを追加する形で解析を実施した。インバージョン解析の結果、コーナー振動数fcは前震で0.19Hz、本震で0.06Hzとなった。ここからBruneの応力降下量は前震では約2.2MPa、本震では約1.8MPaと見積もられた。コーナー振動数fcを用いて短周期レベルAを算定した結果、地震モーメントM0に対して1/3に比例するとされているスケーリング則からみると、前震に比べて本震は若干小さく、壇ほか(2001)等の短周期レベルAの回帰式を前震・本震とも有意に下回る結果が得られた。また、余震の短周期レベルはこれまでの主として中小地震から求められた回帰式の傾向と一致している。同様に、Nakano et al.(2015)で指摘しているように、余震の応力降下量は前震および本震と同等かそれ以下であった。なお、今回分離した震源特性と減衰特性の積で、KiK-net益城などで観測されたフーリエスペクトルを割り込んで推定したサイト特性において前震および本震での強い非線形性が確認できた。

上記の解析結果から、平成28年熊本地震では、震源のスケーリング則について考えれば、決して特異に大きいものではないこと、本震(今回は前震も含む)より余震の応力降下量は同等かそれ以下であること、前震や本震では地盤の非線形性が強く生じていたことがわかった。ただし、本解析においてはω-2モデルを仮定し、200galを超えない強震波形を用いて震源スペクトルを推定していることから、断層面での破壊運動が顕著に反映される震源近傍での強震動を直接的に評価したものではないことに注意されたい。また、本検討はあくまで暫定的なものであり、今後、震源近傍の減衰モデルに関する考察を行うと共に、震源モデルについての詳細な検討やサイト特性の地盤非線形の理論的解釈など、より詳細な検討を進める予定である。

謝辞
防災科学技術研究所(K-NET、KiK-net)や気象庁の震度ネットワークで観測された強震波形を使用させて頂きました。記して感謝の意を表します。