日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS34] 2016年熊本地震および関連する地殻活動

2016年5月26日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

17:15 〜 18:30

[MIS34-P52] 2016年熊本地震による阿蘇カルデラの北部低地に見られる亀裂と地震断層:地上調査と低空撮画像の解析による検討

*田中 圭1中田 高2松多 信尚3楮原 京子4竹竝 大士5隈元 崇3森木 ひかる5 (1.一般財団法人 日本地図センター、2.広島大学名誉教授、3.岡山大学、4.山口大学、5.岡山大学(院生))

キーワード:熊本地震、地震断層、地盤破壊、阿蘇カルデラ

2016年熊本地震では、既存の活断層分布図に示された布田川–日奈久断層帯の断層線にほぼ沿う位置の地表変位の他に、国土地理院都市圏活断層図「熊本」(池田ほか、2001)に図示された白旗山北西麓から北東に延びる断層線の北方延長で阿蘇カルデラ内の南阿蘇村南西部域と、益城町下陳から西方へ益城町中心部にかけての区間において、それぞれ沖積低地を変位させる顕著な右横ずれの地表地震断層が新たに出現した(熊原ほか、2016)。さらに、これらとは別な地変として、国土地理院は地震直後に撮影された画像をもとに、豊肥本線市ノ川駅西方の阿蘇西小学校の北から内牧温泉にかけて、西南西−東北東に断続的ではあるがほぼ直線的に連なる顕著な亀裂をマッピングしている(国土地理院:航空写真判読による布田川断層帯周辺の地表の亀裂分布図:http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/H27-kumamoto-earthquake-index.html)。この地変沿いの干渉SARの解析結果(地理院地図の干渉SARデータ:同URL)を見ると、地変沿いに長さ約5km、幅1~2kmの範囲に短波長の干渉縞が認められる。
これらの亀裂について、現地調査を実施するとともに、亀裂が明瞭な場所においてはドローン(200g未満の小型マルチコプターを含む)および高さ約10mのポールカメラを用いて詳細なオルソ画像を作成し、亀裂に沿った地盤の変位を詳細に検討した。その結果、これらの亀裂は、全体が成因を同じくする一連の地変から成るのではなく、ある区間では旧河道に発生した地盤の側方流動・不同沈下により形成されたと考えられる地変もあれば、一方、別な区間では亀裂に沿って系統的な右横ずれ変位を伴う地変が観察されることから側方流動などとは異なる成因を考える必要もあることが推察された。この成因としては、地震の規模に比してずれの鉛直成分が大き目な値であるという特殊性はあるものの、地震動に伴う単なる表層部の2次的な変形ではなく、その連続性や変位の形態から地下の断層変位に由来するものである可能性が高いと考えられる。
具体的な地変の性状の説明として、まず、内牧温泉付近では、国土地理院の亀裂分布図には示されていない地変として、遊技施設の駐車場およびその周辺で幅100m、長さ150-200mの範囲に、N60~75°Eの走向で右ステップする3条の顕著な亀裂が認められる。西側の一条は、駐車場の北端から用水路を横切り田んぼを50cm以上変位させ、北西の住宅にまで達する東南落ちの変位である。中央の一条は、用水路を挟んで駐車場を変位させて北側に延び、水田と集合住宅を横切ってホテルの建物の近くまで達する。この亀裂に沿う横ずれの量は、水路や駐車場の白線、側溝などが最大数10cm、系統的に右横ずれしている。また、縦ずれ量は、南西側では北西落ちで最大1m弱程度、北東側では南東落ちで最大1m程度であり、横ずれ断層の変位に沿って観察されることの多い蝶番的なずれの形態を示す。東側の一条は、駐車場東側の田んぼより始まり道路や家を通過して県道149号線に達し、最大変位は数十センチの北西落ちである。これらの地変の周辺での野外踏査からは、その成因を側方流動と考えた場合に見合う対となる圧縮変形は見られなかった。
次に、阿蘇市狩尾の乙姫川右岸では、N60~75°Eの走向で数条の平行する亀裂に挟まれた幅約80m長さ約300mの地溝状の凹地が認められる。地溝の低地を挟む2状の亀裂に沿って右横ずれが確認できることから、これらの亀裂も地下の断層変位に由来するものと考えることができる。さらに、阿蘇西小学校の北方にも、上記と同様な亀裂によって挟まれる幅約50m、長さ500m以上にわたる連続性の良い地溝状の凹地が認められる。亀裂に沿った見かけの上下変位量は2m以上に達する箇所もある。この亀裂に沿っては、不明瞭ながら右横ずれが認められるところもある。この地溝状の亀裂が出現した場所は、周囲より標高がやや高い位置にあり、米軍空中写真で圃場整備前の地形を見ると、旧流路状の地形は支流の扇状地を横切り下流側が高くなっていて、側方流動・不同沈下がこの地変の直接的な成因とは考えられないことから、地下の断層変位に由来するものである可能性が指摘できる。
これらのことから、阿蘇カルデラ北部低地に出現した亀裂については、地表地震断層として今回の一連の地震活動の断層変位を示すものである可能性があるものと考えて、地震学・測地学データや構造物の被害状況などとあわせて今後さらに精査する必要がある。

本調査には平成28年度科学研究費補助金(特別研究促進費)「2016年熊本地震と関連する活動に関する総合調査」(課題番号:16H06298、研究代表者:清水洋)および平成28年度「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究」課題番号1702「地表地震断層および活断層の地表形状・変位量データにもとづく直下型大地震の規模・頻度予測手法の高度化 −LiDAR 等の高解像度 DEM を用いた検討」を使用した。