日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS34] 2016年熊本地震および関連する地殻活動

2016年5月26日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

17:15 〜 18:30

[MIS34-P61] 強震記録による2016年熊本地震の震源破壊過程

*浅野 公之1岩田 知孝1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:2016年熊本地震、震源破壊過程、強震記録

2016年熊本地震と一連の地震活動では、2016年4月14日21時26分に発生したMJ6.5の地震(本稿では最大前震と呼ぶ)の約28時間後の4月16日1時25分にMJ7.3の地震(本稿では本震と呼ぶ)が発生した。本研究では、強震記録を用いて最大前震と本震の震源破壊過程を推定した。マルチタイムウィンドウ線形波形インバージョン法(Hartzell and Heaton, 1983)を用い、強震記録(K-NET、KiK-net、F-net、気象庁)に適用した。時空間の平滑化はSekiguchi et al. (2000)に従い、平滑化の強さと第1タイムウィンドウフロントの伝播速度はABIC最小規準によって決定した。
最大前震については、直後の余震分布及び防災科学技術研究所F-netのモーメントテンソル解の情報から、日奈久断層帯北部に沿ったほぼ鉛直の断層面(走向212度、傾斜89度、長さ14 km、幅13 km)を仮定し、13地点の強震記録から得られた速度波形3成分(0.05–1 Hz)を解析した。深さ11.4 kmの破壊開始点付近にすべりの大きな領域が見られたほか、北東側のやや浅い部分(深さ5 km程度)にもすべりの大きな領域がある。このことが、益城町周辺で高震度が観測された要因の一つであると考えられる。地震モーメントは2.04×1018 Nm(Mw6.1)、平均すべり量0.36 m、最大すべり量1.2 mであり、右横ずれのすべりが主であった。最適な第1タイムウィンドウフロントの伝播速度は2.2 km/sである。
本震については、余震の空間分布や国土地理院による地殻変動の解析から震源断層が北西に傾斜していることが示唆されている。日奈久断層帯に沿って発生している余震も、最大前震の余震はほぼ鉛直の断層面に沿って発生していたのに対し、本震後の余震は北西に傾斜した面に沿って発生しているようにも見える。また、産業技術総合研究所や東北大学など複数の現地調査チームにより、布田川断層帯の益城町から南阿蘇村にかけての区間に加え、日奈久断層帯北部の御船町から益城町にかけての区間で、地表地震断層の出現が報告されている。これらの情報を考慮し、日奈久断層帯北部(走向205度、傾斜72度、長さ14 km、幅18 km)と布田川断層帯(走向235度、傾斜65度、長さ28 km、幅18 km)に沿った2枚の断層面からなるモデルを設定し、15地点の強震記録から得られた速度波形3成分(0.05–0.5 Hz)を解析した。布田川断層帯のすべりは、断層深部から始まり、北東にユニラテラルに伝播しつつ、浅い方向へ広がっていった。最大すべりを伴うサブ断層の深さは約8~10 kmであり、モーメントテンソル解のセントロイドが深めに決まっていることとも調和的である。地表に最も近いサブ断層のすべり量は1~3 m程度である。また、日奈久断層帯北端付近の浅部にもやや大きなすべり見られ、地表地震断層の出現に対応していると考えられる。断層面上のすべりのスナップショットと、布田川断層近傍の熊本県震度計観測点(益城町、西原村)の変位波形(インバージョンには使用していない)を比較したところ、観測点近傍の断層がすべる時刻に対応して、同程度の変位が観測されており、推定された破壊過程の妥当性を確認した。地震モーメントは4.67×1019 Nm(Mw7.0)、平均すべり量1.9 m、最大すべり量5.3 mであった。最適な第1タイムウィンドウフロントの伝播速度は2.4 km/sである。
以上のことから、日奈久断層帯北部での前震を伴い、本震時には日奈久断層帯北部から布田川断層帯にかけて、連続的に破壊が伝播したものと考えられる。2002年5月に地震調査委員会より公表された「布田川・日奈久断層帯の評価」では、布田川・日奈久断層帯北東部が一体としてM7.2の地震を起こすとして評価されていた。2013年2月に地域評価に伴って改訂された「布田川断層帯・日奈久断層帯の評価(一部改訂)」では、布田川断層帯と日奈久断層帯は別々の活動をするものとし、布田川断層帯布田川区間がM7.0、日奈久断層帯高野-白旗区間がM6.8の地震を個別に起こすものとして評価され、両者の連動の可能性はなくなっていた。詳細な断層形状については、臨時余震観測の結果を待つ必要はあるが、現時点の解釈では、現実に発生した2016年熊本地震は2002年の活断層評価のシナリオに類似していたといえる。今回の地震の破壊過程や地震活動を詳細に分析し、内陸の活断層で発生する地震の活動区間や地震シナリオの想定に活かす必要がある。
謝辞:国立研究開発法人防災科学技術研究所K-NET、KiK-net、F-net、気象庁、熊本県の強震記録を使用しました。関係の皆様に感謝します。