日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT27] 地球惑星科学データ解析の新展開:データ駆動型アプローチ

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*桑谷 立(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、駒井 武(東北大学大学院 環境科学研究所)、宮本 英昭(東京大学総合研究博物館)、小池 克明(京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻地殻環境工学講座)、堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)、長尾 大道(東京大学地震研究所)

17:15 〜 18:30

[MTT27-P02] 特異スペクトル変換法を利用した大気中ラドン濃度異常変動解析

*岩田 大地1長濱 裕幸1武藤 潤1安岡 由美2 (1.東北大学大学院理学研究科地学専攻、2.神戸薬科大学薬学部放射線管理室)

キーワード:大気中ラドン濃度、異常検出、特異スペクトル変換法

ラドンは,天然に存在する無色無臭のウラン系列に属する半減期が約3.8日の放射性元素である.ラドン(222Rn)はラジウム(226Ra)がアルファ崩壊することによって生成される.岩石中に含まれるラジウムの崩壊によって生成されたラドンが地表から散逸し,大気中ラドン濃度として放射線管理施設で観測される.
大気中ラドン濃度は,地震発生に関連して,異常変動すると報告されてきた.例えば,1995年の兵庫県南部地震発生前に,神戸薬科大学で観測された大気中ラドン濃度は異常変動をし,高い濃度を示したと報告されている(Yasuoka and Shinogi, 1997).これは地殻中の応力変化が地表からのラドン散逸を促し大気中ラドン濃度異常を引き起こしたと考えられている.(Yasuoka et al., 2009).大気中ラドン濃度の観測データは,多くの変動要因を含む.これまで実際にデータを解析する際は,観測データの平年変動として季節変動と経年変動を仮定して最小二乗法により残差を計算し,異常変動を判定するという手法がとられてきた.しかし従来の方法には,気象などの変動要因に関する先験的な知識が必要であるため,モニタリングや異常変動の検知などには,不向きであると考えられる.そこで今回,特異スペクトル変換法(Ide and Inoue, 2005)を利用して大気中ラドン濃度観測データを解析した.特異スペクトル変換法は,直近の時系列データから構成される部分時系列の特徴パターンを求め,その類似度を利用して異常値を計算することができる.大気中ラドン濃度は,札幌医科大学と福島県立医科大学の放射線管理施設で観測されたものを使用した(Kobayashi et al., 2015).
特異スペクトル変換法による解析の結果,札幌医科大学で観測されたデータからは,十勝沖地震(2003 年9 月26 日,Mw 8.0)と東北地方太平洋沖地震(2011 年3 月11 日, Mw 9.0)付近で異常値が確認された.福島県立医科大学で観測されたデータからは茨城県沖地震(2008 年5 月8 日,Mw 6.8),福島県沖地震(2008 年7 月19 日,Mw 6.9),福島県沖地震(2010 年3 月14 日,Mw 6.5),東北地方太平洋沖地震(2011 年3 月11 日, Mw 9.0)付近で異常値が確認された.特異スペクトル変換法による異常値が確認された時期は,従来法の気象などの変動要因を仮定して解析した大気中ラドン濃度異常変動の時期とも一致する.このことは,観測期間において大気中ラドン濃度変動をもたらす気象要因以外の環境変化が起こったことを示唆している.また今回用いた特異スペクトル変換法が複雑な変動システムを有する大気中ラドン濃度変動に対して有効であることが考えられる.