日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT28] 地球化学の最前線:未来の地球化学を展望して

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、角野 浩史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系)、横山 哲也(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、平田 岳史(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)、下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)

17:15 〜 18:30

[MTT28-P07] 法科学応用を目的とした火山ガラスの微量元素分析による地域特性化の試み

*野上 哲平1阿部 善也1中井 泉1 (1.東京理科大学大学院 総合化学研究科)

キーワード:火山ガラス

本研究では土砂試料の法科学的起源推定を目的として、土砂中に含まれる火山ガラスの微量元素分析を行った。土砂は地表全体に広く分布し、無意識のうちに衣服や靴に付着するため、科学捜査において場所と人とを結びつける微細証拠物件として重要視される。我々は全国3024か所で採取された河川堆積物を用いて、法科学応用を目的とした日本全国土砂データベースの開発を行っている1)。これまでに、地質的特徴を反映しやすい土砂中の重鉱物・重元素組成に着目してきたが、より詳細な地域特性化を実現するための新しい指標として、土砂に含まれる火山ガラスに着目した。火山ガラスはマグマが急冷されることで生成する非晶質の火山砕屑物であり、世界有数の火山大国である日本において広域に分布することから、日本全国で指標として用いることができると期待される。また、その火山ガラスの化学組成は噴火前のマグマの残余流体の組成を強く反映し給源火山ごとに異なるため、化学組成に着目することで地域特性化が行えると考えられる。先行研究2)では、火山ガラスの主成分組成をEPMAを用いて分析することでテフラの層序同定が行われており、地質学に大きく貢献している。本研究では、火山ガラス1粒子ごとに微量元素組成を分析するために、数十µmの微小固体の微量元素分析が可能なレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)を導入し、その有用性を検証した。
本研究で用いた分析試料は、関東地方のFig. 1に示す採取地で採取された試料A~Dの4点である。試料AおよびBは荒川の堆積物であり、法科学土砂データベース構築用の河川堆積物3024点から選び出されたものである。重元素および重鉱物組成からでは、これら2地点の土砂を区別することができなかった。試料CおよびDは本研究で採取した土壌試料であり,試料Cは浅間山の火山灰、試料Dは富士山・箱根山の火山灰を含む。これらの試料に対して、篩分けにより粒径を125 μm以下に揃えた後、比重2.4の重液分離で重鉱物を除去し、樹脂包埋後に表面を研磨した。偏光顕微鏡による観察と顕微ラマン分光法を併用して、LA-ICP-MSによる微量元素分析用に、各試料について50粒ずつ火山ガラスを同定した。装置は四重極型ICP-MS Agilent 7500cにLA装置UP213を接続したものを用いた。組成のばらつきを考慮し、1粒子内の3箇所を分析した。測定元素は先行研究において火山ガラスによるテフラの識別に有効であるとされる12元素(Li, B, Y, Zr, La, Ce, Pr, Nd, Tb, Yb, Th, U)を対象とした3)
以下では89Yと90Zrの2元素に着目した特性化を行う。関東地方のテフラは北緯36度(Fig. 1参照)を境に北部は浅間山・榛名山、南部は富士山・箱根山を起源とする火山灰が支配しているとされる4)。Fig. 2に、試料C, D中の火山ガラスの89Yと90ZrのICP-MSの強度(29Si強度によって規格化)をプロットしたものを示す。Fig. 2から分かるように、試料C,D中の火山ガラスには異なる組成的傾向があり、分散分析からも有意水準α=0.01で試料Cのプロット群(グループN)と試料Dのプロット群(グループS)の間に有意差が確認された。浅間山は富士山・箱根山に比べて火山フロントよりも西側に位置しており、マグマ溜まりから火口までの距離が長く、マグマの結晶分化作用が進行していると考えられる。そのため、造岩鉱物の結晶に入り込みにくい不適合元素がより濃集することから、試料C中の火山ガラスには不適合元素であるYおよびZrが多く含まれたものと考えられる。試料C, D中の火山ガラスの89Yと90Zrの規格化強度を用いて両グループを判別する式を構築し、試料A, B中の火山ガラスへと適用した。その結果、試料Aの85.4 %がグループNに、試料Bの75.9 %がグループSに判別された。この結果は、鉱物・重元素組成で特性化できない2地点の河川堆積物について、火山ガラスの微量元素組成を用いることで識別できることを示している。以上より、本研究によって土砂データベースの新しい指標としての火山ガラスの有用性が実証された。
1)W.S.K. Bong et al., Forensic Science International, 6372 1-17 (2012)
2)青木 かおりら, 地質調査研究報告, 57, 239-258, (2006).
3)Seiji Maruyama, et al., Quaternary International, 30, 1-14 (2015)
4)関東ローム研究グループ, 関東ローム-その起源と性状, 築地書店, (1965)