17:15 〜 18:30
[MTT28-P08] 競争配位子平衡CSV法を用いた海水中の銅有機錯体に関する研究—多重検出窓を使って—
キーワード:海洋、銅、有機配位子
海水中の銅は植物プランクトンにとって必須の元素であるが、水和したフリーの銅イオン濃度が高い場合、毒性を示すことが知られている。しかし、海水中で銅は99.9%以上が有機錯体を形成するため、実際に植物プランクトンに対する毒性は抑えられている。このように生物の成育に密接に関わるため、海水中での銅の存在状態を明らかにすることは重要な課題である。
海水中の銅の存在状態に関する研究では、高感度なカソーディックストリッピングボルタンメトリー(CSV)が最もよく使われている。CSV法では、サリチルアルドキシム(SA)を人工配位子として添加することによって、海水中の銅を測定することが出来る(Campos and van den Berg, 1994)。海水中の天然の有機配位子の濃度と条件安定度定数を求めるためには、海水に既知量の銅を添加して反応する銅をCSV法で測定する「金属滴定法」が一般的に用いられている。この方法では、人工配位子SAと天然の有機配位子が銅との錯生成反応を競うことになるため、「競争配位子平衡(CLE)—CSV法」とも呼ばれている。
このような手法の開発によって海水中の銅の存在状態に関する研究は大きく進展してきたが、問題点も指摘されている。例えば、同じCLE-CSV法を用いて同じ海域で研究を行っても、研究グループによって異なる結果が得られるという点である。このような食い違いの原因の一つとして挙げられるのが、検出窓(Detection Window)の問題である。海水中のどの安定度の有機配位子を検出できるかは、添加する人工配位子の種類と濃度のパラメーター(検出窓)に依存する。これまでの研究では1種類の検出窓がよく用いられてきたが、天然の複数種の有機配位子を研究するには、複数の検出窓で金属滴定を行う必要がある。そこで、本研究では複数の検出窓のCLE-CSV法を用いて、海水中の銅の存在状態を検討した。
<方法>
海水試料は新青丸KS-15-6次研究航海(2015年6月25日〜7月6日)において、東シナ海、沖縄トラフ、琉球海溝で採取した。X型ニスキン採水器により海水を採取した後、クリーンコンテナラボにおいて試料を濾過した。海水は孔径0.2 mmのカプセルフィルターにより濾過した。全銅濃度測定用の海水試料は高純度塩酸を添加してpH 1.8以下とし、CLE-CSV法用の海水試料は冷凍し、陸上の実験室に持ち帰った。
全銅濃度測定用試料は紫外線照射後、SAを用いたCSV法により測定した(Campos and van den Berg, 1994)。CLE-CSV法用試料は4oCで解凍し、分析を行った。この海水試料は10個のテフロン容器に分注後、ホウ酸緩衝溶液と既知量の銅を加え2時間後にSAを添加した。これらの試料を一晩放置した後、CSV法により測定した。SAを1 mMとなるように調整した場合、5 mMとなるように調整した場合という2種類の試料を用意し、測定を行った。得られた結果はRuzic/van den Berg線形法によって解析し、有機配位子濃度と条件安定度定数を得た。
<結果と考察>
東シナ海における溶存態の全銅濃度は0.82 – 4.7 nMの範囲であり、揚子江の影響を受けた低塩分海域で濃度の高い傾向が得られた。また、CLE-CSV法による測定の結果、条件安定度定数(K)がlogK = 13 – 14.1(強いリガンド), 11.7 – 12.2(弱いリガンド)という2種類の配位子を検出できた。それぞれ添加するSAの濃度を1 mM, 5 mMとすることにより、明瞭な結果を得ることが可能となった。これらの有機配位子の条件安定度定数はこれまでの他の海域での報告値と同レベルであり、2種類の検出窓を使うことによって、より詳しい有機配位子の測定が可能となった。弱いリガンド濃度は25.6 – 47.6 nMと比較的変動の少ない値となったが、強いリガンドは3.6 – 11.2 nMと海域によって大きく変化することも明らかになった。生物生産の高い海域において、強いリガンド濃度が高くなっている可能性が考えられる。
<引用文献>
Campos, M.L.A.M., and van den Berg, C.M.G., 1994. Determination of copper complexation in sea water by cathodic stripping voltammetry and ligand competition with saliclyaldoxime. Anal. Chim. Acta, 284, 481-496.
海水中の銅の存在状態に関する研究では、高感度なカソーディックストリッピングボルタンメトリー(CSV)が最もよく使われている。CSV法では、サリチルアルドキシム(SA)を人工配位子として添加することによって、海水中の銅を測定することが出来る(Campos and van den Berg, 1994)。海水中の天然の有機配位子の濃度と条件安定度定数を求めるためには、海水に既知量の銅を添加して反応する銅をCSV法で測定する「金属滴定法」が一般的に用いられている。この方法では、人工配位子SAと天然の有機配位子が銅との錯生成反応を競うことになるため、「競争配位子平衡(CLE)—CSV法」とも呼ばれている。
このような手法の開発によって海水中の銅の存在状態に関する研究は大きく進展してきたが、問題点も指摘されている。例えば、同じCLE-CSV法を用いて同じ海域で研究を行っても、研究グループによって異なる結果が得られるという点である。このような食い違いの原因の一つとして挙げられるのが、検出窓(Detection Window)の問題である。海水中のどの安定度の有機配位子を検出できるかは、添加する人工配位子の種類と濃度のパラメーター(検出窓)に依存する。これまでの研究では1種類の検出窓がよく用いられてきたが、天然の複数種の有機配位子を研究するには、複数の検出窓で金属滴定を行う必要がある。そこで、本研究では複数の検出窓のCLE-CSV法を用いて、海水中の銅の存在状態を検討した。
<方法>
海水試料は新青丸KS-15-6次研究航海(2015年6月25日〜7月6日)において、東シナ海、沖縄トラフ、琉球海溝で採取した。X型ニスキン採水器により海水を採取した後、クリーンコンテナラボにおいて試料を濾過した。海水は孔径0.2 mmのカプセルフィルターにより濾過した。全銅濃度測定用の海水試料は高純度塩酸を添加してpH 1.8以下とし、CLE-CSV法用の海水試料は冷凍し、陸上の実験室に持ち帰った。
全銅濃度測定用試料は紫外線照射後、SAを用いたCSV法により測定した(Campos and van den Berg, 1994)。CLE-CSV法用試料は4oCで解凍し、分析を行った。この海水試料は10個のテフロン容器に分注後、ホウ酸緩衝溶液と既知量の銅を加え2時間後にSAを添加した。これらの試料を一晩放置した後、CSV法により測定した。SAを1 mMとなるように調整した場合、5 mMとなるように調整した場合という2種類の試料を用意し、測定を行った。得られた結果はRuzic/van den Berg線形法によって解析し、有機配位子濃度と条件安定度定数を得た。
<結果と考察>
東シナ海における溶存態の全銅濃度は0.82 – 4.7 nMの範囲であり、揚子江の影響を受けた低塩分海域で濃度の高い傾向が得られた。また、CLE-CSV法による測定の結果、条件安定度定数(K)がlogK = 13 – 14.1(強いリガンド), 11.7 – 12.2(弱いリガンド)という2種類の配位子を検出できた。それぞれ添加するSAの濃度を1 mM, 5 mMとすることにより、明瞭な結果を得ることが可能となった。これらの有機配位子の条件安定度定数はこれまでの他の海域での報告値と同レベルであり、2種類の検出窓を使うことによって、より詳しい有機配位子の測定が可能となった。弱いリガンド濃度は25.6 – 47.6 nMと比較的変動の少ない値となったが、強いリガンドは3.6 – 11.2 nMと海域によって大きく変化することも明らかになった。生物生産の高い海域において、強いリガンド濃度が高くなっている可能性が考えられる。
<引用文献>
Campos, M.L.A.M., and van den Berg, C.M.G., 1994. Determination of copper complexation in sea water by cathodic stripping voltammetry and ligand competition with saliclyaldoxime. Anal. Chim. Acta, 284, 481-496.