日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT30] 統合物理探査

2016年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 101B (1F)

コンビーナ:*茂木 透(北海道大学大学院理学研究院付属地震火山研究観測センター)、山中 浩明(東京工業大学大学院総合理工学研究科)、中里 裕臣(農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所)、山下 善弘(応用地質株式会社)、座長:山中 浩明(東京工業大学大学院総合理工学研究科)、中里 裕臣(農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所)、山下 善弘(応用地質株式会社)

16:30 〜 16:45

[MTT30-05] 統合物理探査による鋼管杭根入調査

*鈴木 敬一1柘植 孝1 (1.川崎地質株式会社)

キーワード:近接施工、鋼管杭、根入調査、磁気探査、速度検層

本報告は、施工中に掘進機が他の構造物に接触し、施工ができなくなった事象に対して、既設構造物(鋼管杭)の根入深度を確実に把握するために複数の物理探査を適用した事例である。
近年、突発的に発生するゲリラ豪雨により、都市部においても洪水が起きるなど社会的にも問題となっている。洪水を防ぐために一時的に雨水をためるための貯水池が地下に建設されている。しかし、都市部地下も混雑し、近接施工を余儀なくされている。
一方、既設構造物の直下の施工においては、図面等から既設構造物の根入深度がわかる場合も多いが、古い構造物では不明な場合もある。図面が存在する場合でも、実際の構造物の形状が異なる、あるいは根入れ深度が異なるなどの理由で、施工中にトラブルが発生することもある。
通常、鋼製の杭などは磁気探査を行って根入深度を調査するが、これまでの磁気探査ではボーリング孔からの方位がわからないという課題があった。これを解消するために3成分の孔内ベクトル磁力計(BVM)が開発された(押田ほか、2006)。BVMは、直交した3成分の磁気センサをボーリング孔内に挿入して、杭の残留磁化あるいは誘導磁化による磁場を測定し、測定波形の波長や振幅を解析することにより、杭先端の三次元的な位置を推定する手法である。
施工の状況から既に掘進機が鋼管杭にあたっていると推定された。図面を確認すると、対象とする鋼管杭以外にも鋼製の既存の橋台基礎や土留め杭など、複雑な構造を呈している。
そのため3成分の磁気探査でも鋼管杭の根入深度を確実に推定できない可能性があると考え、速度検層を併用することにした。速度検層は、鋼管杭を伝播するP波速度が地盤の伝播速度より大きいことを利用した手法である。対象とする構造物そのものを打撃してP波を発生させるため、他の構造物にはP波が伝播しないことを利用して、対象とする杭を推定することが可能である。P波速度が大きく、かつ磁気探査でも検出されれば、対象物であることが確実に推定できる。
調査の結果、以下の情報が得られた。
(1)速度検層によってGL-15.5mで伝搬速度の変曲点が認められ、鋼管杭の端部を表していると考えられる。
(2)速度検層の結果から鋼管杭と想定される深度帯のP波速度は4.3km/sであり、明らかに地層の速度より大きい。
(3)BVMの記録結果は、探査孔近傍に位置する複数の磁性体-橋台、土留杭、鋼管杭、シールドマシンの影響を受け、孔口からGL-14m付近にかけて磁気反応は複雑に分布し、解釈を困難にしている。
(4)しかし、BVMによるGL-15.6mの独立した波形による推定根入れ深さは、速度検層の変曲点深さとほぼ一致する。
(5)両者を考慮して、杭の先端深さをGL-15.6mと結論づけた。
(6)掘進機の天端はGL-14.5mであり、推定根入れ深さがGL-15.6mであるから掘進機は確実に既設鋼管杭にあたっていると考えられる。
本報告は、BVMと速度検層の複数の探査を組み合わせた統合物理探査により、複雑な構造の場合でも確実な成果を挙げることができた。工事完成図面より根入深度が深かった原因は今のところ不明であるが、今後この結果に基づき、アンダーピニングや路線の変更など、対策工が検討されるものと考えられる。
参考文献
押田淳・内山昭憲・久保田隆二・鈴木敬一(2006):孔内ベクトル磁力計の開発,物理探査学会第115回学術講演会論文集,139-140
押田淳・鈴木敬一・・矢部弘一・新家由隆(2006):孔内ベクトル磁力計による鋼管杭探査事例,物理探査学会第115回学術講演会論文集,141-144