日本地球惑星科学連合2016年大会

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[O-02] 高校生によるポスター発表

2016年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、久利 美和(東北大学災害科学国際研究所)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構 地球環境変動領域)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、山田 耕(早稲田大学政治経済学術院)

13:45 〜 15:15

[O02-P16] 平尾台カルスト広谷湿原、最近の減少と復活+ラムサール条約

水島 明夫1多武 想太1山本  健太朗1古本 絢音1、*松岡 成龍1ウィリアムソン オーウェン1前田 規宏1亀崎 拓海1、*梶原 朋寛1小森 菜央1松下 仁亮1ウィリアムソン ケヴィン1 (1.東筑紫学園高等学校)

キーワード:平尾台カルスト、広谷湿原、ラムサール条約、地下水涵養

1.はじめに

私たち理科部は1993年、世界的に貴重なカルスト台地、平尾台を研究しようと再設立された。平尾台は「理科部生誕の地」とも言える場所である。
この平尾台に、日本で唯一カルスト台地に存在する貴重な湿原、広谷湿原についてその成因、減少、再生の三点から考察した。

○ 成因・・・水のないカルスト台地になぜ湿原が存在するのか。そして、その湿原がなぜ維持されているのか、広谷湿原はカルストならではの「広谷の穴」に、本流の水を奪われたことによる『三日月湖的存在』であると考察し、流量観測、遷急点後退跡の測量から、証明した。
○ 減少・・・これまでの1994、2001年そして2010年と17年におよぶ湿原の測量結果を面積数値で比較し、減少の理由を検討した。なんと、 60%以上も湿原は減少していた。また、今年の3月に4度目の面積測量を行った。
○ 再生・・・福岡県や地元の苅田町に「里山イニシアティブ」を元に再生の提言を行い、ネザサの「かきおこし」や地下水の涵養等、広谷湿原の保全作業をしている。
そして、“広谷湿原を含む平尾台カルスト”をラムサール条約に登録する活動をしている。

2.広谷湿原 の“減少”

湿原はなぜ急激に減少したのか、自然的な要因から考察を行ったが、どれも該当しなかった。
この21年間で、広谷で起こった出来事で最大のものは、2000年に行われた広谷湿原保全工事(木道の建設、広谷湿原を一周するための人工道、湿原縮小を防ぐための石積み、湿原の北側に作られた人工川を統合した工事)である。特に人工道が湿原に大きな影響を与えたと考えた。
また、今年の3月27~29日の3日間、面積測量を行った。その最、新しい発見があった。まず、本来は地下水に浸透していた所が、沢になっていた。これにより地下水面が低下したのではないかと考えている。今までは、湿原の境界はオオミズゴケや地面を押して地下水面を確認していたが、新しい手法として土壌硬度計を用いようと考えている。
現時点では、まだ製図が終わってないので、大会までには間に合わせ、湿原面積の増減を調べ、原因を考察する。
3.広谷湿原 の“再生”

「人間がずらしてしまった湿原の時間軸を元に戻すのは、人間の義務である」と考え、福岡県保健環境研究所の須田先生のご指導のもと、ネザサのかきおこしなどの再生活動を行っている。これは、生物多様性を保全するために必要な「攪乱」を人工的に起こしている。その結果、湿性植物種は4種から11種へ復活した。絶滅危惧種のイヌセンブリが見つかるなど、湿性植物の再生に大きな成果があった。また、再生した植物種から、過去の湿原環境を推測できるのではないかと考えている。
昨年の空撮による植生調査の結果、石積みの細かなメンテナンスにより、石積み付近の湿原の一部が復活していることが分かった。また、新しく見つけた石積みのメンテナンスも行う。
さらに、広谷湿原上流の湧水の流量観測も行った。上流からの地下水の涵養も提言する。

4.“生物多様性”ラムサール条約登録運動

ラムサール条約は生物多様性に関連した、幅広い国際条約である。世界的には2015年現在、2,208ヶ所の登録地のうち51ヶ所がカルスト関連で、日本でも山口県の秋吉台が登録されている。そこでラムサール条約に“広谷湿原を含む平尾台カルスト”を登録しようと、活動を始めた。
環境省福岡事務所長より、ラムサール条約の登録には、地元をいかに盛り上げるかが重要だと言われ、その普及活動に取り組んでいる。直接、地元にアピールをする手段として、広谷湿原自然観察会には、すでに13回参加し、理科部員によって平尾台や広谷湿原の成因の解説を行っている。
2014年、第16回日本水大賞で文部科学大臣賞を受賞した。その関係で、2015年に日本治山治水協会発行の水利科学に50頁に渡って掲載された。これらの活動の様子は各メディアでも取り上げられ、大勢の人にアピールすることができた。また、2014年に開かれた「福岡県レッドデータブック発刊記念シンポジウム」で基調発表、パネリストとしての参加した。広谷湿原とラムサール条約について多くの人に知ってもらう、良い機会を得られたと思っている。
今年の2月に行われた、全国ユース環境活動発表大会では、環境大臣と大臣官房審議官に話をする事ができた。4月に行われたユースエネルギーサミット北九州では、市長から「環境都市としてラムサール条約は良いですね。」という言葉を直接いただき、登録運動が着実に進んでいる。

5.おわりに

今年は、面積測量から得たデータを元に湿原面積の増減の原因を考察する。そして、昨年行った空撮による植生調査の結果と、今年の面積測量の結果の比較も行う。また、北九州市立大学の原口教授からアドバイスで、電導度計を用いた水質調査と植生の考察も行いたい。

参考文献(一部)
横田直吉退職記念出版会(1982)平尾台の石灰洞,日本洞窟協会,272pp.
原口 昭(2013)日本の湿原,生物研究社,206pp.