日本地球惑星科学連合2016年大会

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[O-04] ジオパークへ行こう

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*渡辺 真人(産業技術総合研究所地質情報研究部門)

17:15 〜 18:30

[O04-P39] 山陰海岸ジオパークの流紋岩からなる地質とジオサイトの地域資源的価値の再検討

*山本 大寛1先山 徹1 (1.兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科)

キーワード:ジオパーク、ジオサイト、火成岩

京都府北西部から兵庫県北部、鳥取県東部の1府2県にまたがる山陰海岸ジオパークは、日本海形成から現在に至る様々な地形や地質が存在し、それらを背景とした生き物や人々の暮らし、文化・歴史について触れることができる地域である。山陰海岸の地形的特徴の一つは多様な海岸線にあり、特に中央部の兵庫県域は顕著なリアス海岸で特徴づけられる。この入り組んだ地形は構成する地質の違いも反映しており、例えば三尾大島・鎧の袖・猫崎半島・宇日などの硬質な流紋岩の部分は岬となり、堆積岩などのやわらかい地層からなる部分は入り江となって集落が形成されている。これらの流紋岩の岬は天然記念物となるなど、山陰海岸ジオパークの代表的なジオサイトになっている。柱状節理や流理構造などが示す美しい景観とともに、シーカヤックや遊覧船などのアクティビティの場としても注目されている。
ジオパークの活動を進めるにあたり、このようなジオサイトの価値を正しく把握し、それを伝えていくことは重要である。しかしながら、これまでの地質学的研究の中で、これら流紋岩類の位置付けは必ずしも十分明らかになっているわけではない。これらの流紋岩体がいずれも照来層群高山累層(2-3Ma)に対比され(弘原海ほか 1966、兵庫県 1996)、照来層群の歌長流紋岩の年代である約3Ma(宇都ほか 1994)の火山活動であるとされている。しかし、これらの各岩体は離れて存在するため相互の地質的関係は不明であり、年代測定もなされていない現状で、岩相の類似という点のみで同一年代の岩体であるとするのは無理がある。また、宇日流紋岩体はおよそ10㎞にわたり流れた溶岩流であるとされている(弘原海・松本 1958)が、溶岩流と思われるような根拠もあいまいである。
筆者はこれらのうち最大規模である宇日流紋岩体と、その付近の猫崎半島に分布する流紋岩体について地質学的検討を加えてきた結果、先行研究と異なる結果を得たので報告する。
宇日流紋岩のうち宇日―田久日集落周辺と来日山周辺の流紋岩は、現行の地質図で一連の分布を示しているが、野外調査の結果、両者の間では分布が途切れており、基盤の北但層群が分布していたことが明らかになった。また、来日山周辺に分布する岩石は、輝石、角閃石を含む流紋岩であり、宇日―田久日集落周辺に分布する岩石は流理構造と球顆が顕著にみられる流紋岩である。それに対し、猫崎半島に分布する岩石は角閃石を含むデイサイト~安山岩質の岩石である可能性が高い。これらの結果から、それぞれの岩体が異なっており、一連の溶岩流による形成ではないことが明らかになった。
宇日―田久日集落周辺の海岸域に分布する流紋岩に顕著にみられる流理構造は、大局的にみて60~80°程度の急傾斜である。また、流理構造が攪乱され、閉じた褶曲状の構造をなしていることもあり、地表を流れた溶岩流ではなく、溶岩ドームや貫入によって形成された可能性がある。
猫崎半島西方では、北但層群の堆積岩類と照来層群の火成岩類との傾斜不整合面が観察できる露頭があるとされているが、境界面にはクリンカーなどの構造が見られず、時間的ギャップが確認できなかった。さらに、境界面及び流理構造は40°程度の傾斜となっており、宇日―田久日集落間の構造と異なり、むしろ下位に存在する北但層群の構造と平行に近い。したがって、猫崎半島に分布するデイサイトの形成は、北但層群堆積岩類の堆積時と大きく違いはない可能性がある。
以上の結果から、宇日流紋岩体を形成する供給源が複数あった可能性が示唆された。さらにこのことは、三尾大島や鎧の袖といった山陰海岸ジオパークに分布する他の流紋岩体についてもその位置付けを再検討する必要があることを示している。