日本地球惑星科学連合2016年大会

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[O-05] 地球科学界と原子力発電の関係 ー浜岡原発を題材としてー

2016年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:*金嶋 聰(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、橋本 学(京都大学防災研究所)、鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)、川勝 均(東京大学地震研究所)、末次 大輔(海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター)、座長:末次 大輔(海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター)、橋本 学(京都大学防災研究所)

09:05 〜 09:30

[O05-01] 地震科学からみた浜岡原子力発電所の変遷と地震・津波安全性

★招待講演

*石橋 克彦1 (1.神戸大学名誉教授)

キーワード:浜岡原子力発電所、東海地震、南海トラフ巨大地震、耐震安全性、津波

フィリピン海プレート(PH)の沈み込み境界メガスラストの真上に位置する中部電力(中電)浜岡原子力発電所(御前崎市佐倉)について,地震科学の発展と併せてその変遷を振り返り,プレート間巨大地震に対する安全性を考える.まず,略年表を示す(◎印は地震関連事項).(以下で地震動の数値は,水平成分の最大加速度)
==========================<略年表は行数の関係でかなり省略してある>
1967:1月,中電,浜岡原発計画を秘かに打診, 9月,浜岡町「条件付受け入れ」を表明
◎1969.4:地震予知連絡会(予知連)発足,東海地方東部はM8級地震の特定地域と認識
1969.5:浜岡原発を電源開発調整審議会(電調審)が条件付承認
◎1969.11:茂木清夫,伊豆〜東海東半に大地震の可能性を指摘,予知連,特定観測地域1号に指定
1970:5月,中電,原子炉設置許可申請,12月,設置許可,機能保持確認用地震動450Gal
◎1970〜71:金森博雄,1944・46年巨大地震をPHの沈み込みで解釈,1972:杉村新,PH北限を確定
1972.9:中電,2号機増設の設置変更許可申請,1973.6:設置変更許可,地震動は1号機と同じ
◎1973.11:安藤雅孝,東海巨大地震の予想断層モデルを提出(遠州灘付近,地震学会で発表)
1976.3:1号機,営業運転開始(2号機の運転開始は78.11) (1,2号機は2009.1に運転終了)
◎1976:石橋克彦,駿河湾地震説(5,8月,予知連に報告,10月,地震学会で発表)
1977.6:中電,3号機増設を地元に申し入れ
◎1978.9:原子力委員会,「耐震設計審査指針」策定,基準地震動S1,S2を導入
1978.10:3号機を電調審が承認,1981.11:原子炉設置変更許可, S2=600Gal(87.8,運転開始)
◎1997.9:石橋克彦,日本列島での「原発震災」を警告,特に浜岡の危険性指摘「廃炉をめざすべき」
1998.12:5号機,原子炉設置変更許可,S2=600Gal,津波高+5.8m,-8.8m(2005.1,運転開始)
◎2006.9:原子力安全委員会,「耐震設計審査指針」改訂,基準地震動をSsに一本化
2007.4:中電,耐震指針改訂に伴う耐震バックチェックでSs=800Gal,津波高+7.9m,-8.6m
◎2007.8:藤原治ら,浜岡原発付近で過去数千年間に3回の間欠的大隆起を報告(第四紀学会で発表)
2009.8:駿河湾の地震(M6.5,Δ37km)で5号機に損傷発生,直下のハギトリ波(Ssに対応)441Gal
2011.5:菅首相の要請で4,5号機運転停止,定期検査中の3号機運転再開せず,5号機原子炉に海水混入事故
◎2012.8:内閣府の検討会,M9級南海トラフ巨大地震の強震動と津波の推計結果を公表
2015年:中電,新規制基準適合性審査を申請,4号機(1月),3号機(6月),Ss=1200Gal,2000Gal
2015.12:津波対策の防波壁完成,海抜22m,全長1.6km(高さ21.1mの津波を想定)
==========================<略年表,以上>
基準地震動600Galで建設した3〜5号機を,1200ないし2000Galでも本当に大丈夫に「補強」できるのか,疑問である.東海地震/南海トラフ巨大地震が起これば,直近の分岐断層的活動の可能性を含めて,長時間の短周期強震動と長周期強震動,大規模な地殻変動,大津波,続発する大余震が連続的に浜岡原発を襲う.最大加速度が1200〜2000Gal以下か,津波が22m以下か,保証できない.強震動と地殻変動は,施設の損傷のほかに,敷地地盤の崩壊,防波壁の損壊,海水系の破壊(地殻隆起と引き波による取水塔不全を含む)を生じうる.以上の諸現象に対して地震・津波対策と過酷事故対策が万全だと考えるのは危険な楽観であろう.