日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG21] 惑星大気圏・電磁圏

2016年5月26日(木) 09:00 〜 10:30 101B (1F)

コンビーナ:*今村 剛(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、高橋 芳幸(神戸大学大学院理学研究科)、深沢 圭一郎(京都大学学術情報メディアセンター)、中川 広務(東北大学 大学院理学研究科 地球物理学専攻太陽惑星空間物理学講座 惑星大気物理学分野)、座長:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)

09:30 〜 09:45

[PCG21-09] 電波掩蔽データの電波ホログラフィ解析で明らかになった金星大気温度の微細構造

宮本 麻由2、*今村 剛1 (1.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、2.東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻)

キーワード:金星、電波掩蔽、FSI

電波掩蔽とは探査機が地上局から見て惑星の背後を通過した際に、探査機から送信された電波が惑星大気を通過し地上局に届くことを利用した観測である。惑星大気の高度方向の温度分布を測定することができ、惑星探査における重要な観測手法のひとつである。電波掩蔽データの解析においては長年、電波を1本の光線として扱う幾何光学解法が用いられている。しかし、この解法では複数経路(マルチパス)の電波が重なり地上で同時に受信されると分離できない。マルチパスは金星では高緯度に見られる温度逆転領域でしばしば生じる。また、この解法では鉛直分解能がフレネルゾーンの大きさ(典型的な探査機と電波の接点の距離を金星半径の2倍、電波の波長3.6cmのとき~1 km)で制限される。
本研究では上記の欠点を補うために新たに提案されている電波ホログラフィ法を用いて金星大気の構造を決定した。この法はマルチパス領域の処理と高分解能で大気構造を得るために提案された手法であり、そのうちの一つがFull Spectrum Inversion (FSI)で、近年の地球大気におけるGPS掩蔽観測で用いられている。本研究では、このFSIをESA Venus Expressの電波掩蔽データに適用し金星大気の鉛直温度分布を新たに求め、惑星大気観測におけるFSIの有効性を実証した。
FSIにより求まった金星大気の鉛直温度分布はマルチパスを分離し、高鉛直分解能 (~150m) を達成した。これにより金星大気の温度構造について新たに次のことを述べた。(1)中高緯度で従来知られていたよりもシャープな温度極小構造が見られ、温度極小の直下が断熱温度勾配になっていること、およびこの中立層(対流層)は従来知られていたよりも高高度まで到達しており、その上の安定層と薄い遷移領域で隣り合っている。これは雲頂付近における放射冷却だけではなく、対流プルームがより高高度まで到達し温度極小の構造を作っていることを示唆している。また対流層がその上の安定層と薄い遷移領域で隣り合っている状況は、対流プルームが安定層をたたき重力波を生成するのに好都合な条件である。さらに、(2)対流層の上の安定層で厚さ数百m程度の薄い中立層が中高緯度で数多く捉えられた。これは重力波の砕波によって生成された乱流の層が捉えられた可能性がある。