15:30 〜 16:45
[PCG21-P03] 近赤外偏光分光観測で探る金星上層雲構造
キーワード:金星上層雲、偏光分光観測
惑星大気の構造をリモートセンシングにより推定するには、多くのパラメータを一度に決定する必要がある。それは分厚い雲の上に薄いヘイズ層が乗っただけの単純な構造であっても、やはり簡単ではない。雲とヘイズ粒子のサイズが大きく異なる場合には、それらの性質の波長依存性を利用するなどして、両者を独立に近い形で決定できる可能性がある。本講演では、そのような手法の一つを提案し、実際の金星大気に適用した結果を報告する。
具体的な手法として、近赤外線偏光分光観測を用いる。金星の主雲はおよそ1ミクロン、ヘイズはサブミクロンの粒子(Mie散乱で近似できる)から成る。近赤外線領域(0.9μm<λ<2.5μm)における利点は
(1) ヘイズの散乱断面積が急速に小さくなり、主雲の性質が支配的となること
(2) 主雲によるMie散乱で生じる偏光の符号が変化する点=中立点が存在し、その検出が容易であること
である。こうした性質を利用し、近赤外線領域のデータから主雲の性質を独立に決定する。
近赤外線領域で半無限雲層モデル(雲粒子は標準サイズ1.05μm)の放射伝達計算を行った。偏光度は予想通り、波長の増大に伴い負から正へ符号変化した(以降、正負の境目の波長をλnとする)。また主雲粒子サイズをr=0.8μm(小), 1.05μm, 1.5μm(大)と変化させると、標準サイズはλn=1.81µm、小サイズではλn=1.46µm、大サイズではλn=2.28µmであった。したがって、0.8μm< r <1.5μmの範囲であれば、J, H, Kバンド(中心波長それぞれ1.25μm, 1.65μm, 2.2µm)での偏光分光観測によってλnを求め粒子サイズを決定することが可能である。なお温度や硫酸濃度(いずれも屈折率を変える)といった他のパラメータを変えた場合の偏光度も計算したところ、金星の値として考えうる範囲内では影響がないことを確認した。
この手法の妥当性を検証し、かつ近年我々が捉えている極域ヘイズが激減する金星の雲物理特性を調べるための観測を、2015年5月19日から25日にかけて広島大学東広島天文台で行った。観測装置は「かなた」望遠鏡装着の”HONIR”(Hiroshima Optical and Near‐Infrared)で、観測波長域はJ, H, Kバンドである。光学系内で生じる機械偏光については無偏光標準星Procyonを観測し、その補正が必要ないことを確認している。なお、その偏光度(P[%])には約0.2%のばらつきがあり、測定誤差としてこの程度の不確定性を持つと考えられる。
得られた金星低緯度の偏光スペクトルP(λ)の傾きは dP/dλ~4.5%/μm程度である。これと測定誤差±0.2%とから、λnの決定精度±0.05μmが得られる。さらに先述のモデル計算で得たλnのr依存性よりdλn/dr~1.16が求められ、λnの決定精度を鑑みると、粒子サイズの決定精度はJ, H, Kバンドの範囲内の平均で±0.04μm程度であることがわかった。金星観測から得たλnは、5月21日はλn=2.1μm, 22, 24, 25日はλn=2.2μm程度であった。これらを放射伝達計算と比較すると、21日はr=1.2μm, 22, 24, 25日はr=1.35μmの計算と整合しており、いずれも標準モデル(Esposito et al., 1983)のr=1.05μmよりも大きい粒子の存在を示唆する結果となった。
2010年4, 5月にVenus Express搭載SPICAVによって取得された低緯度の近赤外域(λ~1.1μm, 1.27µm)偏光データにおいて、主雲の粒子サイズr=1.2µmが観測と整合する例も報告されており(Rossi et al., 2014)、本研究でもそのような変化をとらえた可能性があると考えられる。
具体的な手法として、近赤外線偏光分光観測を用いる。金星の主雲はおよそ1ミクロン、ヘイズはサブミクロンの粒子(Mie散乱で近似できる)から成る。近赤外線領域(0.9μm<λ<2.5μm)における利点は
(1) ヘイズの散乱断面積が急速に小さくなり、主雲の性質が支配的となること
(2) 主雲によるMie散乱で生じる偏光の符号が変化する点=中立点が存在し、その検出が容易であること
である。こうした性質を利用し、近赤外線領域のデータから主雲の性質を独立に決定する。
近赤外線領域で半無限雲層モデル(雲粒子は標準サイズ1.05μm)の放射伝達計算を行った。偏光度は予想通り、波長の増大に伴い負から正へ符号変化した(以降、正負の境目の波長をλnとする)。また主雲粒子サイズをr=0.8μm(小), 1.05μm, 1.5μm(大)と変化させると、標準サイズはλn=1.81µm、小サイズではλn=1.46µm、大サイズではλn=2.28µmであった。したがって、0.8μm< r <1.5μmの範囲であれば、J, H, Kバンド(中心波長それぞれ1.25μm, 1.65μm, 2.2µm)での偏光分光観測によってλnを求め粒子サイズを決定することが可能である。なお温度や硫酸濃度(いずれも屈折率を変える)といった他のパラメータを変えた場合の偏光度も計算したところ、金星の値として考えうる範囲内では影響がないことを確認した。
この手法の妥当性を検証し、かつ近年我々が捉えている極域ヘイズが激減する金星の雲物理特性を調べるための観測を、2015年5月19日から25日にかけて広島大学東広島天文台で行った。観測装置は「かなた」望遠鏡装着の”HONIR”(Hiroshima Optical and Near‐Infrared)で、観測波長域はJ, H, Kバンドである。光学系内で生じる機械偏光については無偏光標準星Procyonを観測し、その補正が必要ないことを確認している。なお、その偏光度(P[%])には約0.2%のばらつきがあり、測定誤差としてこの程度の不確定性を持つと考えられる。
得られた金星低緯度の偏光スペクトルP(λ)の傾きは dP/dλ~4.5%/μm程度である。これと測定誤差±0.2%とから、λnの決定精度±0.05μmが得られる。さらに先述のモデル計算で得たλnのr依存性よりdλn/dr~1.16が求められ、λnの決定精度を鑑みると、粒子サイズの決定精度はJ, H, Kバンドの範囲内の平均で±0.04μm程度であることがわかった。金星観測から得たλnは、5月21日はλn=2.1μm, 22, 24, 25日はλn=2.2μm程度であった。これらを放射伝達計算と比較すると、21日はr=1.2μm, 22, 24, 25日はr=1.35μmの計算と整合しており、いずれも標準モデル(Esposito et al., 1983)のr=1.05μmよりも大きい粒子の存在を示唆する結果となった。
2010年4, 5月にVenus Express搭載SPICAVによって取得された低緯度の近赤外域(λ~1.1μm, 1.27µm)偏光データにおいて、主雲の粒子サイズr=1.2µmが観測と整合する例も報告されており(Rossi et al., 2014)、本研究でもそのような変化をとらえた可能性があると考えられる。