日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG21] 惑星大気圏・電磁圏

2016年5月26日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*今村 剛(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、高橋 芳幸(神戸大学大学院理学研究科)、深沢 圭一郎(京都大学学術情報メディアセンター)、中川 広務(東北大学 大学院理学研究科 地球物理学専攻太陽惑星空間物理学講座 惑星大気物理学分野)

15:30 〜 16:45

[PCG21-P16] イオプラズマトーラス発光非対称からの木星内部磁気圏における朝夕電場の評価

*荒川 崚1村上 豪2三澤 浩昭1土屋 史紀1北 元1 (1.東北大学大学院理学研究科 惑星プラズマ・大気研究センター、2.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)

キーワード:イオプラズマトーラス、朝夕電場、朝夕非対称性

これまでの地上観測・探査機による観測によりイオプラズマトーラスの発光強度分布に朝夕非対称が存在することが知られており、その原因として朝から夕方方向にかかる約4mV/mの電場の存在が考えられている。2013年9月に打ち上げられたHISAKI衛星により、プラズマトーラスの長時間連続観測が可能となり、発光強度の朝夕非対称性が太陽風動圧に応答して時間変動していることが明らかとなった。これは自転効果が強い木星磁気圏の内部に太陽風の影響が及んでいる事を示す結果として注目されている。本研究では、HISAKI衛星により観測された発光強度の朝夕非対称性から朝夕電場の強度を定量的に導出する事を目的に、発光強度の朝夕非対称性を生む原因について検討を行った。
内部磁気圏に朝夕電場がかかることによって、イオプラズマトーラスプラズマの流線は等L値から朝側へシフトし、プラズマは夕方側でより木星に近づく軌道をとる。第一断熱不変量の保存から電子の温度は朝側より夕方側で高くなるため、夕方側でのイオンの電子衝突励起の効率が高くなり、発光強度が上昇する。本研究では、これらの過程を以下の手順で定量的に検討した。(1)共回転電場に朝夕電場が印加された時のプラズマの運動方程式をルンゲクッタ法で計算し、粒子軌道を求める。電子の速度分布として熱的(5eV)と高温(50eV)の2温度分布を採用し、それぞれの成分について断熱効果による温度変化を計算する。(2)単位磁束管内のプラズマの総量の保存を仮定し、朝側と夕方側での磁場強度の変化による電子密度変化を計算する。(3)熱的および高温電子の密度の典型値として2000/ccと20/ccを採用し、(1)と(2)で評価した電子温度、密度の変化によるイオンの電子衝突励起の体積放射率(イオン種:S++(68nm))の変化を原子データベース(CHIANTI)を用いて計算する。(4)プラズマの軌道の変化に伴い、プラズマの分布が朝夕で非対称になり、その結果朝夕で地球からの視線方向の積分長が変化するので、この効果も考慮し、プラズマトーラスの朝側、夕方側の発光強度の比を計算する。(1)から(4)の手順を、朝夕電場強度が0から10mV/mの範囲で実行し、電場と発光強度の朝夕非対称の対応を導出した。
発光強度の非対称に寄与している効果を調べるために、熱的電子の温度と密度、高温電子の温度と密度、視線方向の積分長の5つの要素について、朝夕電場による変化と発光強度非対称への依存性を調べた。その結果、熱的電子の温度変化が最も発光強度の非対称に寄与しており、高温電子の寄与はほとんどないことが分かった。これは極端紫外線の波長域では、イオンの体積放射率の電子温度依存性が20eV以上で弱くなることが原因である。
本研究で求められた朝夕電場とプラズマトーラスの発光強度の朝夕非対称の対応関係を用い、HISAKI衛星の観測結果から朝夕電場強度を推定した。HISAKI衛星により観測された2014年1月1日、14日の朝側と夕方側の発光強度の比はそれぞれ、1.49、1.13であった。これから推定される朝夕電場強度はそれぞれ3.4mV/m、1.0mV/mとなった。HISAKI衛星の観測結果から電場強度を推定するにあたっては、より現実に近いモデルが必要である。このためには、プラズマトーラスの動径方向の空間構造と、放射による電子の冷却効果を考慮する必要があり、これらが今後の課題である。