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[PEM16-P02] 国内運用に最適化された小型高高度気球システムの開発と飛翔評価試験の結果
キーワード:小型高高度気球、パラフォイル、誘導制御
1. はじめに
地上から成層圏界面までの高高度域における観測手法として、特殊高高度航空機や観測ロケット、高高度気球が一般的に用いられている。このうち高高度気球は他の手段に比べて、簡素な構造で実現可能なため、実験にかかるコスト及び搭載機器への物理的な負荷が少ない利点を持つ。更に、推進に化学反応を用いず、上昇速度が数m/sであることから、観測対象となる大気の撹拌を起こさず、科学観測において有利な観測手法である。これらの利点を活かして、海外では気象観測業務用の小型観測気球を、高高度気球実験に応用する事例が頻繁に見受けられるようになった。気象観測気球は直径が約3 m以内のゴム製気球であり、ペイロード質量は単独の気球で約5 kg以内と他の手段と比較して非常に小型である。これらの小規模、低価格な高高度気球実験は、大質量の装置運搬を必要としない局面において、今後有効性を発揮する可能性が十分に考えられるようなった。このような背景から、高高度気球の重要性は大きく、活用方法次第で、その役割は飛躍的に拡大していくと思われる。しかし小型高高度気球を用いた観測手法は国内での普及と活用が進んでいない。これは主に日本の地理的な制約によって搭載装置の回収と運用の安全確保が困難であることに起因している。広大な国土をもつ海外の国々では、砂漠や人口密度の小さい平野を着地点として設定することで、実験装置を搭載した小型高高度気球を安全に運用かつ効率的に回収することが可能である。一方、国内では着地点は限定され、海洋に設定せざるを得ないため気球を用いる優位性が十分に発揮できない。小型高高度気球は事前の気流予測を元に回収を行うが、予測誤差を能動的に吸収する機構や機能を持った気球運用システムは存在していない。本研究では、大学研究室レベルでの開発と検証が可能な小型高高度気球の運用システムにフォーカスし、上述した課題を克服するためサーボ制御のパラフォイルを用いた制御降下式ペイロード技術の開発と性能評価実験を通して開発システムの妥当性および実用性を検討した。
2. 開発した機体及び低高度飛行実験
各種飛行試験(直進滑空、旋回)に供する図の様な試験機体を設計し、高度約20 mの高所作業車からの投下する低高度飛行実験を行った。機体は地上からの遠隔操作で制御を行った。
3. 実験結果
6回投下中1回分の搭載SDカードに記録されたGPS位置及び気圧計データから算出した滑空比は約2となった。評価はパラフォイルが安定滑空に入った期間について行う必要があったが、期間が短く長期的な評価が困難なため、短期間の評価を行った。同データからは、投下直後は垂直降下速度が支配的だが、その後垂直降下で得たエネルギーが水平滑空に変わるフェーズになり、着地前に水平速度を低下させながら安定滑空に入っていく様子が確認できた。機首方位角と左右サーボ制御角の関係の考察から、サーボ制御による旋回について南から東方向に進行しつつあった機体が右側サーボの引き下げと同期して南方向に舵を切る様子が機首方位角データおよび機体オンボードカメラ映像から見て取れた。
4. まとめ
機構設計に関しては多くの新規開発要素に設計妥当性が確認された。円筒筐体および内部モジュールは比較的高加速度の着地衝撃に耐え、通常運用では問題にならないことが確認された。また、強風下の激しい運動を伴った高所作業車からの低高度飛行試験においてパラフォイルが機体に絡まる等の問題は発生せず、パラフォイルの開傘不良および失速による翼形状の崩壊に伴う墜落は起きなかった。不安定な上昇挙動および懸吊、投下姿勢を免れない小型高高度気球搭載装置において補助・接続ロッドの果たす重要性を確認することができた。しかし、軽量と強度を両立した複雑な設計を行う必要があったことから、結果的に1レイヤーに電装基板を収めることが不可能になった。このため、一部のモジュールが僅かなスペースに懸架される形で実装され、飛行試験における着地時に、懸架されたモジュールが相次いで基板から脱落、破損し、動作不良を招く結果となった。今後の課題は、長距離飛行時の滑空比、旋回性能を確認するために、より高い高度からの飛行評価実験を行う必要がある。そのような実験は規模が大きくなり実際の放球に近い環境で行うことが想定されることから、信頼性の高いバス機器、地上局システムの開発を行っていく。また、将来的なミッション機器の搭載を見越して、ペイロードのバス機器とミッション機器の構成の設計も平行して行う予定である。
参考文献
河野 紘基,国内運用に最適化された小型高高度気球システムの開発と飛翔評価試験,平成27年度 高知工科大学 大学院特別研究報告,2016.
地上から成層圏界面までの高高度域における観測手法として、特殊高高度航空機や観測ロケット、高高度気球が一般的に用いられている。このうち高高度気球は他の手段に比べて、簡素な構造で実現可能なため、実験にかかるコスト及び搭載機器への物理的な負荷が少ない利点を持つ。更に、推進に化学反応を用いず、上昇速度が数m/sであることから、観測対象となる大気の撹拌を起こさず、科学観測において有利な観測手法である。これらの利点を活かして、海外では気象観測業務用の小型観測気球を、高高度気球実験に応用する事例が頻繁に見受けられるようになった。気象観測気球は直径が約3 m以内のゴム製気球であり、ペイロード質量は単独の気球で約5 kg以内と他の手段と比較して非常に小型である。これらの小規模、低価格な高高度気球実験は、大質量の装置運搬を必要としない局面において、今後有効性を発揮する可能性が十分に考えられるようなった。このような背景から、高高度気球の重要性は大きく、活用方法次第で、その役割は飛躍的に拡大していくと思われる。しかし小型高高度気球を用いた観測手法は国内での普及と活用が進んでいない。これは主に日本の地理的な制約によって搭載装置の回収と運用の安全確保が困難であることに起因している。広大な国土をもつ海外の国々では、砂漠や人口密度の小さい平野を着地点として設定することで、実験装置を搭載した小型高高度気球を安全に運用かつ効率的に回収することが可能である。一方、国内では着地点は限定され、海洋に設定せざるを得ないため気球を用いる優位性が十分に発揮できない。小型高高度気球は事前の気流予測を元に回収を行うが、予測誤差を能動的に吸収する機構や機能を持った気球運用システムは存在していない。本研究では、大学研究室レベルでの開発と検証が可能な小型高高度気球の運用システムにフォーカスし、上述した課題を克服するためサーボ制御のパラフォイルを用いた制御降下式ペイロード技術の開発と性能評価実験を通して開発システムの妥当性および実用性を検討した。
2. 開発した機体及び低高度飛行実験
各種飛行試験(直進滑空、旋回)に供する図の様な試験機体を設計し、高度約20 mの高所作業車からの投下する低高度飛行実験を行った。機体は地上からの遠隔操作で制御を行った。
3. 実験結果
6回投下中1回分の搭載SDカードに記録されたGPS位置及び気圧計データから算出した滑空比は約2となった。評価はパラフォイルが安定滑空に入った期間について行う必要があったが、期間が短く長期的な評価が困難なため、短期間の評価を行った。同データからは、投下直後は垂直降下速度が支配的だが、その後垂直降下で得たエネルギーが水平滑空に変わるフェーズになり、着地前に水平速度を低下させながら安定滑空に入っていく様子が確認できた。機首方位角と左右サーボ制御角の関係の考察から、サーボ制御による旋回について南から東方向に進行しつつあった機体が右側サーボの引き下げと同期して南方向に舵を切る様子が機首方位角データおよび機体オンボードカメラ映像から見て取れた。
4. まとめ
機構設計に関しては多くの新規開発要素に設計妥当性が確認された。円筒筐体および内部モジュールは比較的高加速度の着地衝撃に耐え、通常運用では問題にならないことが確認された。また、強風下の激しい運動を伴った高所作業車からの低高度飛行試験においてパラフォイルが機体に絡まる等の問題は発生せず、パラフォイルの開傘不良および失速による翼形状の崩壊に伴う墜落は起きなかった。不安定な上昇挙動および懸吊、投下姿勢を免れない小型高高度気球搭載装置において補助・接続ロッドの果たす重要性を確認することができた。しかし、軽量と強度を両立した複雑な設計を行う必要があったことから、結果的に1レイヤーに電装基板を収めることが不可能になった。このため、一部のモジュールが僅かなスペースに懸架される形で実装され、飛行試験における着地時に、懸架されたモジュールが相次いで基板から脱落、破損し、動作不良を招く結果となった。今後の課題は、長距離飛行時の滑空比、旋回性能を確認するために、より高い高度からの飛行評価実験を行う必要がある。そのような実験は規模が大きくなり実際の放球に近い環境で行うことが想定されることから、信頼性の高いバス機器、地上局システムの開発を行っていく。また、将来的なミッション機器の搭載を見越して、ペイロードのバス機器とミッション機器の構成の設計も平行して行う予定である。
参考文献
河野 紘基,国内運用に最適化された小型高高度気球システムの開発と飛翔評価試験,平成27年度 高知工科大学 大学院特別研究報告,2016.