日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM16] 大気圏・電離圏

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*大塚 雄一(名古屋大学太陽地球環境研究所)、津川 卓也(情報通信研究機構)、川村 誠治(独立行政法人 情報通信研究機構)

17:15 〜 18:30

[PEM16-P03] 地上デジタル放送波を用いた水蒸気推定手法の開発-反射波を用いた実験結果-

*川村 誠治1太田 弘毅1花土 弘1山本 真之1志賀 信泰1木戸 耕太1安田 哲1後藤 忠広1市川 隆一1雨谷 純1今村 國康1藤枝 美穂1石津 健太郎1岩井 宏徳1杉谷 茂夫1 (1.国立研究開発法人 情報通信研究機構)

キーワード:地デジ放送波、水蒸気

情報通信研究機構(NICT)では、地デジ放送波を用いて水蒸気を推定する手法の研究開発を行っている。装置を多点展開して水平面内の水蒸気変動に起因する伝搬遅延を常時モニターし、データ同化による気象予報精度の向上に貢献することを目的としている。有効な観測のためには数十ps以上の精度で伝搬遅延を精密測定する必要があり、放送局や受信地点の局部発振器の位相変動は大きな誤差要因となる。そのため、考えている基本的なアイデアは次の通りである。電波塔を含む直線上に2つの受信点を設け、それぞれにおいて伝搬遅延(位相変動)を測定する。この測定値には電波塔と受信局それぞれの局部発振器の位相変動が含まれているが、両者の差を取ることで電波塔側局部発振器の位相変動を相殺することができる。残った2地点間の局部発振器の位相変動差を同期により相殺することで、水蒸気量を推定する。
伝搬遅延(位相変動)を精密に測定する技術と、異なる地点の局部発振器を高精度に同期させる技術が重要となる。伝搬遅延の精密測定については、これまでソフトウェア無線の技術で開発を進めてきた地デジ放送波の位相変動のリアルタイム測定装置について改良を進めた。各放送局はそれぞれ独自に局部発振器を運用しており、その種類やGPS同期の有無などには違いがある。どのような局部発振器を用いた局であっても安定して位相変動が長期観測可能なように装置の改良を行った。異なる地点の局部発振器の同期については、現在実証実験の準備を進めているところである。
本発表では、同期不要の観測手法とその結果を報告する。電波塔と受信地点を含む直線上で、受信地点から電波塔と反対方向に反射体がある場合、受信地点において直達波と反射波を同時に受信することができる。測定は受信地点の一つの局部発振器を用いて行われるため同期は不要で、直達波と反射波の差を取るだけで受信地点と反射体の間の往復分の伝搬遅延が測定できる。NICT本部は東京スカイツリーから西方約29 kmに位置している。このNICT本部において、スカイツリーと反対側約1 kmの地点のビルからの反射波が受信できる。直達波と反射波を同時に受信してその差を取ることで、NICT本部とビル間の伝搬遅延の測定を行った。NICT本部にある60 m鉄塔には気温・気圧・湿度等を測定する地上気象装置を設置している。NICT本部とビルの間約1 kmの気象条件がこの地上気象装置の観測データで代表されると仮定して計算した伝搬遅延の変動と、本実験の測定結果は非常に良く一致した。この結果は地デジ放送波が水蒸気に起因する伝搬遅延を測定するために有用であることを示している。ただし、雨が降った後数時間は地デジ放送波を用いて測定した伝搬遅延が計算値よりも大きくなることが分かっている。雨により反射面が濡れる、もしくは雨により大地反射の条件が変わって大地反射成分が受信される等の影響が考えられ、この検証は必要である。