17:15 〜 18:30
[PEM16-P11] VOR、AIS、イオノゾンデを用いた強いEsの電子密度分布推定と遠距離伝搬波の干渉モデルへの適用
電気通信大学では強いスポラディックE(Es)で反射されたVHF帯電波を調布と呉で観測している[1]。強いEs反射によるGBASのVHFデータ伝送系(GBAS-VDB)遠距離伝搬波の干渉を予想するため電子密度構造を広域にわたって調べることが必要となっている[2]。
柳沢の研究ではスポラディックE(Es)の広域構造と移動特性が明らかになってきた[3]が、Esの電子密度分布構造についてはまだ明らかにされていない。ITU-RのEs伝搬モデルは1960年代のEs伝搬観測に基づいた電離層反射減衰量Γと中間反射点付近のイオノゾンデ垂直臨界周波数foEsとの対応式は、周波数80 MHzまでしか適用保証されていなかった[4],[5]。本研究により、2013~2015年の110 MHz付近のVOR遠距離伝搬観測において、中間反射点とイオノゾンデとの距離が約400 km以内の場合、ITU-RのEs伝搬モデルとの対応を初めて確認することができた。
この関係を用いて多数のVOR遠距離伝搬波強度から電子密度分布を推定した結果とAIS遠距離伝搬観測、山川・沖縄イオノゾンデ観測による特定点の電子密度を比較した。2014年6月15日10~15時JST頃に山川(31.20N, 130.62E)および沖縄(26.68N, 128.15E)イオノゾンデとの距離が約400 km以内となる東シナ海、沖縄、九州南部付近においてEsを観測した。このEsが高度108 km、速度約70 m/sで約330°方向に移動していることが確認できた。また、このEsはAISで10時10分~11時30分に沖縄南部・東部海上において、電子密度が1.0×10^13 el/m^3を超える強いEs領域が出現したことが分かった。この時の沖縄イオノゾンデにおける電子密度が9.2×10^12 el/m^3であり、AIS観測によるEsとほぼ一致することを示した。このEsでは、ITU-RのEs伝搬モデルを適用するとVORとGBAS-VDBとの干渉が懸念されるVOR受信電力-98dBmを超える可能性があることがわかった。講演ではこの方法による解析例を示し、強いEsの電子密度の分布や移動特性の特徴と干渉発生の関係について詳しく報告する。
参考文献
[1] 山幡 琢也, 冨澤 一郎, 山本 淳: VHF帯遠距離伝搬受信による広域Es構造観測システム開発,SGEPSS, B005-P038, 2012.
[2] 齊藤真二, 冨澤一郎, 山本淳: GBAS-VDBに対するスポラディックEによるVOR遠距離伝搬の影響の検討, 信学技報, vol. 114, SANE2014-125, pp113-118, 2015.
[3] 柳沢 伸矢:VHF帯遠距離伝搬波観測による強いスポラディックEの広域構造と移動特性の研究,電気通信大学修士論文,2016.
[4] K. Miya and T. Sasaki: Characteristics of ionospheric Es propagation and calculation of Es signal strength, Radio Sci., vol.1, pp.99-108, 1966.
[5] ITU-R:Recommendation of ITU-R, Method for calculating sporadic-E field strength, Rec.ITU-R P.534-4,1999.
柳沢の研究ではスポラディックE(Es)の広域構造と移動特性が明らかになってきた[3]が、Esの電子密度分布構造についてはまだ明らかにされていない。ITU-RのEs伝搬モデルは1960年代のEs伝搬観測に基づいた電離層反射減衰量Γと中間反射点付近のイオノゾンデ垂直臨界周波数foEsとの対応式は、周波数80 MHzまでしか適用保証されていなかった[4],[5]。本研究により、2013~2015年の110 MHz付近のVOR遠距離伝搬観測において、中間反射点とイオノゾンデとの距離が約400 km以内の場合、ITU-RのEs伝搬モデルとの対応を初めて確認することができた。
この関係を用いて多数のVOR遠距離伝搬波強度から電子密度分布を推定した結果とAIS遠距離伝搬観測、山川・沖縄イオノゾンデ観測による特定点の電子密度を比較した。2014年6月15日10~15時JST頃に山川(31.20N, 130.62E)および沖縄(26.68N, 128.15E)イオノゾンデとの距離が約400 km以内となる東シナ海、沖縄、九州南部付近においてEsを観測した。このEsが高度108 km、速度約70 m/sで約330°方向に移動していることが確認できた。また、このEsはAISで10時10分~11時30分に沖縄南部・東部海上において、電子密度が1.0×10^13 el/m^3を超える強いEs領域が出現したことが分かった。この時の沖縄イオノゾンデにおける電子密度が9.2×10^12 el/m^3であり、AIS観測によるEsとほぼ一致することを示した。このEsでは、ITU-RのEs伝搬モデルを適用するとVORとGBAS-VDBとの干渉が懸念されるVOR受信電力-98dBmを超える可能性があることがわかった。講演ではこの方法による解析例を示し、強いEsの電子密度の分布や移動特性の特徴と干渉発生の関係について詳しく報告する。
参考文献
[1] 山幡 琢也, 冨澤 一郎, 山本 淳: VHF帯遠距離伝搬受信による広域Es構造観測システム開発,SGEPSS, B005-P038, 2012.
[2] 齊藤真二, 冨澤一郎, 山本淳: GBAS-VDBに対するスポラディックEによるVOR遠距離伝搬の影響の検討, 信学技報, vol. 114, SANE2014-125, pp113-118, 2015.
[3] 柳沢 伸矢:VHF帯遠距離伝搬波観測による強いスポラディックEの広域構造と移動特性の研究,電気通信大学修士論文,2016.
[4] K. Miya and T. Sasaki: Characteristics of ionospheric Es propagation and calculation of Es signal strength, Radio Sci., vol.1, pp.99-108, 1966.
[5] ITU-R:Recommendation of ITU-R, Method for calculating sporadic-E field strength, Rec.ITU-R P.534-4,1999.