15:00 〜 15:15
[PPS02-05] 火星大気中音波検出器の開発のための過酷環境試験下マイク動作特性の解析
キーワード:火星、インフラサウンド
1.背景
2020年代,宇宙航空研究開発機構(JAXA)により火星探査機の打ち上げが計画されており、シリーズ的な火星探査の実現が期待されている.2016年現在,火星大気中における音波観測は未だ行われていない.そこで探査用ローバーに本研究を反映して設計・開発するマイクを搭載すれば,ダスト現象に伴う火星大気中の音の計測だけでなく,大気中の物理量の間接計測も可能になるとともに,春先の季節に発生する可能性のあるガス放出現象など最近注目され始めた火星地表面活動にもフォーカスしたリモートセンシングに応用できると期待される.
2.目的
火星探査機に搭載するマイクの過酷環境下での試験を行い,コンデンサマイクおよびMEMS (Micro Electro Mechanical Systems)マイクの二種類のマイク評価モデル(BBM)を試作し,どちらが火星大気での動作に適しているか評価・選定を行うこと,およびマイクアレイによる検知性能向上について調整することを目的とする.
3.実験概要
火星地表大気条件として、CO2成分が95%を占め,地表面気圧7 hPa,夜間気温-120 ℃という過酷環境を模した試験を2015年1月に千葉工業大学にて行った.さらに高知工科大学にてマイクBBMの較正実験を行った.可聴音の下限である20 Hz以下の音をインフラサウンドと呼び,将来の火星大気中でのインフラサウンド信号の検知も目標としているため,可聴音の他にインフラサウンドを入力し,較正データとして用いた.真空チャンバを密閉容器として使用し,これに接続した微小容積のシリンジを使って周期的に圧縮・吸引を行い,大気圧に対する微気圧変動を精密波形として作り出し,この波形をインフラサウンド入力とし較正実験を行った.実験系に周波数0.1 Hz,振幅1 Paの波形を入力した時の結果から既存のインフラサウンドセンサ(Chaparral Physics製Model25)とマイクBBMの性能評価を行った.
4.実験結果
高知工科大学で行った実験より,インフラサウンドを用いた測定結果では共に0.1 Hzに一致するスペクトルピークが得られ,波形の最大振幅はChaparral Physics製Model25が0.05989 Pa,コンデンサマイクが0.07657 Paとなった.このことより、使用したコンデンサマイクは0.1 Hz帯では既存のインフラサウンドセンサより高い検出精度をもつことが分かった。その後,同じ0.1 Hz,1 Paの波形入力にてコンデンサマイクとMEMSマイクの比較を行った.コンデンサマイクは0.1 Hzのインフラサウンドを検出できているがMEMSマイクはほとんど検出できていないことが分かった.
5.考察
千葉工業大学の実験では模擬火星大気中での動作が確認されたが,さらに低圧の1 hPaではMEMSマイクのみ出力信号が乱れ動作が確認できなかった.さらに高知工科大学の実験より,0.1 Hzの波形に対してコンデンサマイクBBMはModel25インフラサウンドセンサに対し約1.28倍の受信性能を持っていることが分かる.これよりコンデンサマイクには0.1 Hz帯での優れたインフラサウンド受音性能があることが分かった.2種類のマイクBBMを比較するとコンデンサマイクは0.1 Hzを入力値の約1/10の圧力で検出することが可能であるがMEMSマイクは同帯域を検出できていないことが分かる。千葉工業大学,高知工科大学にて実施した両実験より,耐苛酷,環境面,検出性能面においてMEMSマイクに比べ,コンデンサマイクが火星大気中の音波検出器として適していると言える.
6.結論
火星大気模擬環境下において,コンデンサマイク,MEMSマイクの2種類のBBMを試作して動作比較を行い,大気を模擬した環境下での動作に適したマイクの選定を行った.火星探査における最終的な観測方法は長距離伝搬可能なインフラサウンド帯域での多地点観測に重点を置いている.そのため高知工科大学での実験結果の通り,0.1 Hz程度までのインフラサウンドを観測可能なコンデンサマイクを火星探査用マイクに使用するべきであると結論付ける.
参考文献:
Jeffrey B. Johnson et al.,Volcanic eruptions observed with infrasound,GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, VOL. 31, L14604, doi:10.1029/2004GL020020, 2004.
平塚市博物館火星の大気と気候http://www.hirahaku.jp/hakubutsukan_archive/tenmon/00000025/72.html,2015年12月参照.
2020年代,宇宙航空研究開発機構(JAXA)により火星探査機の打ち上げが計画されており、シリーズ的な火星探査の実現が期待されている.2016年現在,火星大気中における音波観測は未だ行われていない.そこで探査用ローバーに本研究を反映して設計・開発するマイクを搭載すれば,ダスト現象に伴う火星大気中の音の計測だけでなく,大気中の物理量の間接計測も可能になるとともに,春先の季節に発生する可能性のあるガス放出現象など最近注目され始めた火星地表面活動にもフォーカスしたリモートセンシングに応用できると期待される.
2.目的
火星探査機に搭載するマイクの過酷環境下での試験を行い,コンデンサマイクおよびMEMS (Micro Electro Mechanical Systems)マイクの二種類のマイク評価モデル(BBM)を試作し,どちらが火星大気での動作に適しているか評価・選定を行うこと,およびマイクアレイによる検知性能向上について調整することを目的とする.
3.実験概要
火星地表大気条件として、CO2成分が95%を占め,地表面気圧7 hPa,夜間気温-120 ℃という過酷環境を模した試験を2015年1月に千葉工業大学にて行った.さらに高知工科大学にてマイクBBMの較正実験を行った.可聴音の下限である20 Hz以下の音をインフラサウンドと呼び,将来の火星大気中でのインフラサウンド信号の検知も目標としているため,可聴音の他にインフラサウンドを入力し,較正データとして用いた.真空チャンバを密閉容器として使用し,これに接続した微小容積のシリンジを使って周期的に圧縮・吸引を行い,大気圧に対する微気圧変動を精密波形として作り出し,この波形をインフラサウンド入力とし較正実験を行った.実験系に周波数0.1 Hz,振幅1 Paの波形を入力した時の結果から既存のインフラサウンドセンサ(Chaparral Physics製Model25)とマイクBBMの性能評価を行った.
4.実験結果
高知工科大学で行った実験より,インフラサウンドを用いた測定結果では共に0.1 Hzに一致するスペクトルピークが得られ,波形の最大振幅はChaparral Physics製Model25が0.05989 Pa,コンデンサマイクが0.07657 Paとなった.このことより、使用したコンデンサマイクは0.1 Hz帯では既存のインフラサウンドセンサより高い検出精度をもつことが分かった。その後,同じ0.1 Hz,1 Paの波形入力にてコンデンサマイクとMEMSマイクの比較を行った.コンデンサマイクは0.1 Hzのインフラサウンドを検出できているがMEMSマイクはほとんど検出できていないことが分かった.
5.考察
千葉工業大学の実験では模擬火星大気中での動作が確認されたが,さらに低圧の1 hPaではMEMSマイクのみ出力信号が乱れ動作が確認できなかった.さらに高知工科大学の実験より,0.1 Hzの波形に対してコンデンサマイクBBMはModel25インフラサウンドセンサに対し約1.28倍の受信性能を持っていることが分かる.これよりコンデンサマイクには0.1 Hz帯での優れたインフラサウンド受音性能があることが分かった.2種類のマイクBBMを比較するとコンデンサマイクは0.1 Hzを入力値の約1/10の圧力で検出することが可能であるがMEMSマイクは同帯域を検出できていないことが分かる。千葉工業大学,高知工科大学にて実施した両実験より,耐苛酷,環境面,検出性能面においてMEMSマイクに比べ,コンデンサマイクが火星大気中の音波検出器として適していると言える.
6.結論
火星大気模擬環境下において,コンデンサマイク,MEMSマイクの2種類のBBMを試作して動作比較を行い,大気を模擬した環境下での動作に適したマイクの選定を行った.火星探査における最終的な観測方法は長距離伝搬可能なインフラサウンド帯域での多地点観測に重点を置いている.そのため高知工科大学での実験結果の通り,0.1 Hz程度までのインフラサウンドを観測可能なコンデンサマイクを火星探査用マイクに使用するべきであると結論付ける.
参考文献:
Jeffrey B. Johnson et al.,Volcanic eruptions observed with infrasound,GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, VOL. 31, L14604, doi:10.1029/2004GL020020, 2004.
平塚市博物館火星の大気と気候http://www.hirahaku.jp/hakubutsukan_archive/tenmon/00000025/72.html,2015年12月参照.