日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS11] 惑星科学

2016年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 104 (1F)

コンビーナ:*濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、鎌田 俊一(北海道大学 創成研究機構)、座長:岡本 尚也(千葉工業大学惑星探査研究センター)、黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)

16:15 〜 16:30

[PPS11-10] ラブルパイル小惑星のクレーター形成による質量損失の実験的見積もり

*巽 瑛理1杉田 精司1 (1.東京大学)

キーワード:小惑星、衝突実験、クレーター

地上望遠鏡や探査機による観測結果は、数10 km以下の小さな小惑星の多くがものにはラブルパイル天体であることを示唆している[1]。その一方、小惑星の質量進化は衝突破壊だけでなくクレーター形成に伴う質量損失に大きく影響されることも理論的に示されている[2]。小さなラブルパイル小惑星表面は粗粒な岩塊で覆われている可能性が高く、標的粒子と弾丸のサイズ比が1に近い衝突が多く発生する。最近の研究からは、このような条件の場合のクレーター形成効率は従来の重力スケール則や強度スケール則と異なるトレンドを示すことは明らかにされたが、統一的なクレーター則およびメカニズムは明らかになっていない[3]。本研究ではクレーター形成効率を定量的に評価することを目的として、ラブルパイル小惑星を模擬した粗粒な標的に対してクレーター形成実験を行った。
室内衝突実験:宇宙科学研究所の二段式軽ガス銃および東京大学の一段式軽ガス銃を用いて、玄武岩小石(~10, 18 mm)とパミス小石(~7, 9, 16 mm)で構成された粗粒な標的にポリカーボネート弾丸を衝突させ、クレーター形成実験を行った。速度範囲は、高速度領域1 - 6 km/sと低速度領域79 - 224 m/sである。クレーター直径と深さをレーザー変位計(Keyence製LJ-V)で計測した。また、Quarter-space実験を行い、高速カメラ(NAC製Q1v)で撮影しクレーター形成断面を観察した。
結果と解析:標的構成粒子サイズがクレーター形成に関係ないとすれば、クレーター形成効率は砂と同様になるはずである。しかし、クレーター次元解析としてよく知られるπスケーリング[4]と比較すると、高速度(>4 km/s)ではクレーターサイズは砂に形成されるクレーターサイズと同程度であるが、低速度(<4 km/s)では、砂標的の場合より小さなクレーターが形成した。これは構成粒子を破壊し散逸するエネルギーがクレーター掘削のエネルギーに比べて無視できないためだと考えられる。Quarter-space実験の結果からクレーター形成において、衝突初期の構成粒子の破壊過程と後期の粉体流動的な掘削過程に分けられることがわかった。標的粒子径は衝突破壊過程に大きな影響を及ぼすが、掘削過程は砂と同様の振る舞いをしていると考えられた。観察結果を踏まえ、衝突破壊過程と掘削過程に分離し、衝突時に弾丸と標的粒子の運動量交換を仮定し、粗粒なターゲットに対する新しいクレーター則を構築した。これにより、標的粒子と弾丸サイズ比と衝突速度に応じて、クレーターサイズを見積もることができる。
小惑星の質量損失率への影響:イトカワ(構成平均粒子径2 m)を例にとって、新しいスケーリングでクレーターサイズを見積もると、およそ直径1 mより小さな隕石衝突でクレーター形成効率の低下が見られ、直径が0.1 m未満(構成粒子が完全に破壊されない)の隕石衝突ではほとんどクレーターが形成されないことがわかる。最も掘削効率が低い時には、砂にできるクレーターサイズの1/5程度になる。一方で、1 mより大きなサイズの隕石衝突では、砂に形成されるのと同程度のクレーターが予想される。天体の構成粒子が完全に破壊される場合には一枚岩のクレーターサイズよりも数倍大きく、砂に形成されるクレーターサイズに近い。掘削過程が砂と同様であるとすると、クレーターサイズから隕石衝突により天体の脱出速度を超えて飛散するイジェクタ量を見積もることができる。実験結果より、一枚岩の天体に比べ、ラブルパイル天体は同じ規模の衝突を受けたとしても、大きなクレーターが形成され、より多くの質量を損失することがわかった。小さなメインベルト小惑星(< 10 km)の分布は衝突破壊によって決められる定常的な分布よりも浅い分布を持っており[5]、小さな天体がより早く失われることを示唆している。小さな小惑星の多くがラブルパイル天体であるとすると、実験結果はクレーター掘削が小さな小惑星のサイズ分布を支配的に決定していることを示唆するかもしれない。
[1] Pravec and Harris, Icarus 148, 12-20 (2000); Britt et al., Asteroids III, 485-500 (2002); Fujiwara et al., Science 312, 1330-1334 (2006); [2] Kobayashi and Tanaka, Icarus 206, 735-746 (2010) [3] Güttler et al., Icarus 220, 1040-1049 (2012); Holsapple and Housen, 46th LPSC, #2538 (2014) [4] Holsapple, Annu. Rev. EPS 21, 333-373 (1993) [5] Gladman et al., Icarus 202, 104-118 (2009)