日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS11] 惑星科学

2016年5月26日(木) 09:00 〜 10:30 104 (1F)

コンビーナ:*濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、鎌田 俊一(北海道大学 創成研究機構)、座長:竹広 真一(京都大学数理解析研究所)、濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

09:00 〜 09:15

[PPS11-13] 集積期における火星マントルへの水の分配

*齊藤 大晶1倉本 圭1 (1.北海道大学大学院理学院宇宙理学専攻)

キーワード:原始火星、マグマオーシャン、水に富んだマントル

最新の火星隕石の分析結果から, 初期の火星マントルは大量の水 (濃度780 ~ 2870 ppm) を保有していた可能性が示唆されている (McCubbin et al., 2012). この推定値は現在の地球の海洋質量 (1.4×1021 kg) の およそ0.3~1倍に相当する. 火星ではプレートテクトニクスは起きなかったと考えられているため, 内部の水は集積中にもたらされた可能性が高い. 集積中に大量の水を内部に取り込む機構の一つとして, 集積エネルギーや原始大気の保温効果によって形成する大規模なマグマオーシャンよる水の吸収が挙げられる. しかしながら集積中にそのようなマグマオーシャンがどう形成されうるのかは, これまでのところよくわかっていない.
近年の隕石年代学によると, 火星は数 Myr で集積完了した可能性が高い (Dauphas and Pourmand, 2011: Tang and Dauphas, 2013). このことは原始太陽系星雲中で火星の集積が進行したことを示唆している. 一方で, 原始火星が月サイズ以上になると,微惑星から H2O をはじめとする揮発性成分が脱ガスするのに十分な衝突速度が得られる. このことから, 原始火星は星雲ガスおよび脱ガス成分の双方からなる, いわゆる混成型原始大気を形成したと予想される.
そこで我々は1 次元放射対流平衡モデルを構築し, 混成型原始大気の熱的構造について調べた. ここでは集積中の星雲ガス散逸の可能性も想定し, Hill圏における初期星雲ガス圧を~6.9 x 10-2 Pa (Kusaka et al., 1970), 最小星雲ガス圧を初期値の 1/1012 倍 (静水圧平衡近似が破れる値に相当) と仮定し,星雲ガス圧の依存性について調べた.集積時間は隕石年代学と調和的な1- 6 Myrとする.また火星材料物質は,二成分モデル (Wanke and Dreibus, 1988) を適用し,揮発性物質に富み酸化的なCIコンドライト様物質35%,揮発性物質に枯渇し還元的なEコンドライト様物質65%の混合物とする. 脱ガス成分の組成は衝突加熱により生じるケイ酸塩マグマと金属鉄との化学平衡により決定される.脱ガス成分は下層大気を占め,その上空にはHill半径において原始太陽系星雲に接続する水素ヘリウム大気が存在する.原始火星の成長につれた原始大気の進化を数値的に求めた結果,集積時間や星雲散逸の時間スケールによらず,集積期の後半には高温高圧な原始大気が形成され,これに伴い大規模なマグマオーシャンが生じることがわかった. 星雲ガスの散逸を無視した場合, 原始火星質量が現在の 0.3 倍以上に成長すると, 地表面温度が岩石のソリダス 1500 K を超え, 集積完了段階では地表面気圧は 2000bar を超える. 一方, 急速な星雲散逸を想定した場合, 表面温度が岩石のソリダスを超えだすのは原始火星質量が最終質量の0.6 倍に達してからになる.しかしこの場合も集積完了時点での地表面気圧は 800bar を超える. マグマオーシャンに分配される水の量は 9.6×1020kgを上回ると推定され,この分配量は地球海洋質量の ~0.7 倍に相当する. これは先に述べた岩石学的証拠と整合的と考えられる.