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[PPS11-17] 湿潤大気に現れる対流圏界面高度の異なる二つの大気構造
キーワード:水蒸気大気、放射過程、ハビタブルゾーン、水の散逸限界
1. はじめに
ハビタブルゾーンの内側境界は, 暴走温室限界と水損失限界で特徴付けられ, Kasting et al. (1993), Kopparapu et al. (2013) は1次元モデルを用いて暴走温室限界, 水損失限界を推定した. これらの先行研究は灰色大気による成層圏温度の見積もりを参考に 200K 等温成層圏を仮定しているが, 水損失限界の値は cold trap の温度に大きく左右される.Kasting et al. (2015) は1次元放射対流平衡モデルを用いて, N2, CO2, H2O を大気にもつ惑星の温度プロファイルを推定した. その結果, 彼等はハビタブルゾーンの推定には成層圏の温度を 150K とすべきと結論している. また Leconte et al. (2013), Wolf & Toon (2015) は3次元モデルを用いて鉛直プロファイルを計算し, 成層圏は 140~150K 程度と推定された. これらのモデルは k分布法を用いており, 成層圏温度が灰色大気を参考にした 200K よりも低く見積もられたのは, 非灰色の効果による. (Leconte et al. (2013))Arking & Grossman (1972) は理想的な吸収線形の吸収線を持つ大気を考え, 放射平衡にある大気の温度を推定した. その結果灰色大気に比べ, 非灰色大気では上空の温度が下がることを示した. さらに波数による吸収断面積の違いが大きいほど上空の温度は低下し, Lorentz 線形の場合, 太陽加熱がなければ, 圧力 = 0 Paの極限で, 温度は 0 Kとなると述べている. この結果は, 圧力の低い大気の温度の推定には, 波数による吸収断面積の違いを慎重に扱う必要があることを示している.Kasting et al. (2015) などで推定された温度プロファイルでは, 圏界面の圧力は, 地表面温度によって 1000Pa ~ 1Pa 付近と推定されており, 現在の地球と比較してかなり低い圧力に圏界面が現れる. 一方でそれらの先行研究は地球モデルを拡張した放射モデルを用いており, 低い圧力の圏界面の温度が正しく評価できているか検討の余地がある. 本研究では,低い圧力の圏界面温度を推定するために, 吸収断面積の波数ごとの違いを十分表現できる line-by-line 放射モデルにより圏界面温度 (cold trap) を推定することを目的とする.
2. モデル
本モデルでは, 吸収線形に voigt 線形を仮定した. voigt 線形では, 小波数領域では圧力広がり, 大波数領域ではドップラー広がりにより吸収線幅が決まるため, 小波数領域で吸収線幅の圧力依存性が大きい. つまり小波数領域ほど, 低圧では吸収線幅が細くなり, 高分解能な計算が求められる. 本モデルの波数分解能は, 0 – 3000 cm-1 で 10-4 cm-1, 3000 cm-1 以上で 10-2 cm-1 である. しかしこのような高波数分解能放射モデルでの放射対流平衡計算は難しいため, 成層圏は等温の温度プロファイルを仮定し, 成層圏温度を変化させた場合の圏界面の放射加熱率の変化から圏界面温度を推定する. 大気は窒素 (1bar) と水蒸気を含み, 対流圏では飽和, 成層圏の水蒸気混合比は一定とする. 吸収断面積は HITRAN2008, MT_CKD 連続吸収モデルを用いており, 放射伝達は2流近似 (Toon et al. (1989)) を用いて計算する.
3. 結果
計算の結果, 地表面温度によって, 2つの圏界面レジームが実現することが示唆された. 低温圏界面は 120K 程度であり, このとき成層圏水蒸気混合比は非常に小さい. 一方地表面温度が 345K 程度を超えると高温圏界面が存在し, 成層圏の混合比は高くなる. 本研究で低温圏界面が120K と先行研究より低く推定されたことの要因は, 先行研究の波数解像度の問題, もしくは先行研究で含まれている CO2 の影響が考えられる.
ハビタブルゾーンの内側境界は, 暴走温室限界と水損失限界で特徴付けられ, Kasting et al. (1993), Kopparapu et al. (2013) は1次元モデルを用いて暴走温室限界, 水損失限界を推定した. これらの先行研究は灰色大気による成層圏温度の見積もりを参考に 200K 等温成層圏を仮定しているが, 水損失限界の値は cold trap の温度に大きく左右される.Kasting et al. (2015) は1次元放射対流平衡モデルを用いて, N2, CO2, H2O を大気にもつ惑星の温度プロファイルを推定した. その結果, 彼等はハビタブルゾーンの推定には成層圏の温度を 150K とすべきと結論している. また Leconte et al. (2013), Wolf & Toon (2015) は3次元モデルを用いて鉛直プロファイルを計算し, 成層圏は 140~150K 程度と推定された. これらのモデルは k分布法を用いており, 成層圏温度が灰色大気を参考にした 200K よりも低く見積もられたのは, 非灰色の効果による. (Leconte et al. (2013))Arking & Grossman (1972) は理想的な吸収線形の吸収線を持つ大気を考え, 放射平衡にある大気の温度を推定した. その結果灰色大気に比べ, 非灰色大気では上空の温度が下がることを示した. さらに波数による吸収断面積の違いが大きいほど上空の温度は低下し, Lorentz 線形の場合, 太陽加熱がなければ, 圧力 = 0 Paの極限で, 温度は 0 Kとなると述べている. この結果は, 圧力の低い大気の温度の推定には, 波数による吸収断面積の違いを慎重に扱う必要があることを示している.Kasting et al. (2015) などで推定された温度プロファイルでは, 圏界面の圧力は, 地表面温度によって 1000Pa ~ 1Pa 付近と推定されており, 現在の地球と比較してかなり低い圧力に圏界面が現れる. 一方でそれらの先行研究は地球モデルを拡張した放射モデルを用いており, 低い圧力の圏界面の温度が正しく評価できているか検討の余地がある. 本研究では,低い圧力の圏界面温度を推定するために, 吸収断面積の波数ごとの違いを十分表現できる line-by-line 放射モデルにより圏界面温度 (cold trap) を推定することを目的とする.
2. モデル
本モデルでは, 吸収線形に voigt 線形を仮定した. voigt 線形では, 小波数領域では圧力広がり, 大波数領域ではドップラー広がりにより吸収線幅が決まるため, 小波数領域で吸収線幅の圧力依存性が大きい. つまり小波数領域ほど, 低圧では吸収線幅が細くなり, 高分解能な計算が求められる. 本モデルの波数分解能は, 0 – 3000 cm-1 で 10-4 cm-1, 3000 cm-1 以上で 10-2 cm-1 である. しかしこのような高波数分解能放射モデルでの放射対流平衡計算は難しいため, 成層圏は等温の温度プロファイルを仮定し, 成層圏温度を変化させた場合の圏界面の放射加熱率の変化から圏界面温度を推定する. 大気は窒素 (1bar) と水蒸気を含み, 対流圏では飽和, 成層圏の水蒸気混合比は一定とする. 吸収断面積は HITRAN2008, MT_CKD 連続吸収モデルを用いており, 放射伝達は2流近似 (Toon et al. (1989)) を用いて計算する.
3. 結果
計算の結果, 地表面温度によって, 2つの圏界面レジームが実現することが示唆された. 低温圏界面は 120K 程度であり, このとき成層圏水蒸気混合比は非常に小さい. 一方地表面温度が 345K 程度を超えると高温圏界面が存在し, 成層圏の混合比は高くなる. 本研究で低温圏界面が120K と先行研究より低く推定されたことの要因は, 先行研究の波数解像度の問題, もしくは先行研究で含まれている CO2 の影響が考えられる.