日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS11] 惑星科学

2016年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 104 (1F)

コンビーナ:*濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、鎌田 俊一(北海道大学 創成研究機構)、座長:黒川 宏之(東京工業大学地球生命研究所)、坂谷 尚哉(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)

11:45 〜 12:00

[PPS11-23] 室内衝突実験で形成されたクレーター周辺の誘電率・密度・クラック量の関係

*石山 謙1熊本 篤志1高木 靖彦2中村 教博1長谷川 直3 (1.東北大学、2.愛知東邦大学、3.ISAS/JAXA)

月の表層の地質は、アポロ着陸地点において、コアサンプルの密度測定[e.g., Carrier et al., 1991]および、月の地震波観測[e.g., Cooper et al., 1974]から浅いほど密度が小さいことが示されている。月の表層ほど、隕石衝突由来のクラックが多く含まれることに起因すると考えられている[e.g., Cooper et al., 1974]。また、近年では、月周回衛星SELENE(かぐや)による月レーダーサウンダー(LRS)観測により、湿りの海などで表層の誘電率推定が推定され、誘電率・密度・空隙率の間の経験的な関係式[e.g., Carrier et al., 1991]を用いることよって、~19%以上の高い空隙率をもつことが示唆された[Ishiyama et al., 2013]。しかし、有効媒質モデル[e.g., Kärkkäinen et al., 2000]によると、媒質中のクラックの異方性によって、誘電率と空隙率の間の関係は、一意に決まらないことが報告されており、レーダー観測に基づく月表層の地質の議論に不確実性を与える。本研究では、(1) 衝突実験で生成した衝突クレーター周辺の誘電率へのクラックの分布の影響を評価し、さらに、(2) レーダー観測に基づく誘電率からの空隙率や密度の推定方法の妥当性を検討する。
本研究の衝突実験は、宇宙科学研究所の横型二段式軽ガス銃を使用して行われた。最初に、標的とする20 cm×20 cm×10 cmのウクライナ産の玄武岩試料を2つ用意し、各標的試料に、直径0.32cmのステンレス球(質量0.133g)を~3.5 km/sおよび~5.5km/sの速度で衝突させて、衝突クレーターを作成した。次に、形成されたクレーター周辺部で、クラックの異方性による誘電率の相違を調べるため、1つの標的試料から衝突面に平行な方向と垂直な方向に沿った直径2.5cm・長さ約8〜10cmの円柱状のコアサンプルを切り出した。最後に、切り出したコアサンプルを約3〜4mmの厚さごとに切断し、厚片を作成した。クラック分布の同定をしやすくするため、厚片の表面を研磨した。
本研究では、作成した厚片の誘電率・密度・クラック量の測定を行った。誘電率は、誘電体測定システム(東陽テクニカ社製・12962A型誘電率測定インターファイスおよび1260型インピーダンスアナライザ)で5MHzの周波数で測定した。この周波数は、SELENE/LRSの中心周波数に合わせて設定した。密度は、厚片の重量と体積の測定から計算した。また、クラック量は、厚片の表面をスキャナで読み取り、厚片の表面積に対するクラックの面積の比から推定した。
測定の結果、クレーター中心からの距離の増加とともに、クラック量は減少していき、誘電率と密度は増加する傾向が見られた。これらのパラメータは、クレーター周辺のクラック分布の特徴に強く関係していた。また、~5.5km/sの速度条件における標的試料において、衝突面に平行な方向と垂直な方向に沿ったコアサンプルの比較をすることで、我々はクラックの異方性に対応する誘電率の相違を確認し、これが有効媒質モデル[e.g., Kärkkäinen et al., 2000]で説明されうることを示した。しかしながら、この相違は、アポロサンプルの誘電率計測値に見られるばらつきより十分に小さいため、レーダー観測で推定した月表層の誘電率からその密度や空隙率を推定する方法は、妥当であったと結論される。