日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS11] 惑星科学

2016年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 104 (1F)

コンビーナ:*濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、鎌田 俊一(北海道大学 創成研究機構)、座長:黒川 宏之(東京工業大学地球生命研究所)、坂谷 尚哉(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)

12:00 〜 12:15

[PPS11-24] 粒径分布と不規則粒子形状が粉体熱伝導率に与える影響の実験的調査

*坂谷 尚哉1小川 和律2荒川 政彦2田中 智1 (1.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、2.神戸大学)

キーワード:レゴリス、熱伝導率

月や小惑星表層を覆うレゴリスの熱伝導率は、天体の表面温度や熱進化を計算する上で、最重要の物性値である。しかし、レゴリスのような粉体物質の真空下における熱伝導率は、温度や粒子サイズ、空隙率など、様々なパラメータに依存し、それらの依存関係が十分に理解されていないため、パラメータの値からレゴリスの熱伝導率を一意に推定することは難しいのが現状である。そこで、我々はこれまでに主にガラスビーズを用いて、熱伝導率のパラメータ依存性の実験的な調査を行ってきた。その結果を統合して、パラメータの値から熱伝導率の予測を可能とする、粉体の熱伝導率モデルを構築することに成功した。しかし、本モデルには、粒子サイズの分布や粒子のマクロな形状の効果は明示的には含まれておらず、これらの影響を評価することが実際のレゴリスへ適用するための重要な課題となる。
本研究では月レゴリス模擬物質JSC-1A、および、JSC-1Aをふるいによってサイズ分級したサンプルの熱伝導率計測実験を実施した。これらの実験結果から、粒子サイズ分布と粒子形状が熱伝導率に与える影響を考察した。
JSC-1Aの粒子サイズは 1 mm 以下であり、体積メディアン径 (体積累積頻度分布における 50% 粒径) は約 100 μm、体積算術平均径は 40 μm である。これをふるい分けし、53-63 μm、90-106 μm、355-500 μm、710-1000 μm のサンプルを準備した。未ふるいのサンプルを “JSC-O (Original)”、ふるい分けしたサンプルを “JSC-S (Sieved)” と呼ぶこととする。これらのサンプルの熱伝導率は線加熱法で計測した。計測中の真空度は 0.01 Pa であり、測定温度範囲は -25〜60℃である。各サンプルの熱伝導率の温度依存性は、粒子間の接触面を通った熱伝導の寄与である固体伝導率と、粒子表面間の熱輻射の寄与である輻射伝導率を切り分けるために使用した。測定サンプルの粒子サイズ、密度、空隙率を表 1 にまとめる。
実験の結果から明らかになった JSC-O および JSC-S の固体伝導率と輻射伝導率を図 1 に示す。JSC-S の空隙率はそれぞれ異なるため、我々の熱伝導率モデルを用いて JSC-O と同じ空隙率 42% に補正した結果も合わせて示す。また、比較として、空隙率 42% のガラスビーズの結果も示す。
(1) 粒径分布の影響:JSC-O と JSC-S の比較
JSC-O の固体伝導率は、おおよそ JSC-S 90-106 μm の固体伝導率と同程度であることがわかった。この粒子サイズは JSC-O の体積メディアン径と同程度である。つまり、ある粒径分布を持つ粉体物質の固体伝導率は、体積メディアン径を持つサンプルの固体伝導率として表すことが可能であることを示唆している。輻射伝導率に関しても同様に JSC-S 90-106 μm と同程度であり、同様の示唆を得た。これらの結果から、広い粒径分布を持った粉体サンプルの熱特性に関しての代表粒径は、体積メディアン径であると言える。
(2) 粒子形状の影響:JSC-S とガラスビーズの比較
JSC-S の固体伝導率は、同じサイズのガラスビーズと同程度、もしくは低い値であった。これは形状の違いを反映しているものと考えられ、球形粒子に比べて、不規則形状粒子は低い固体伝導率を持つことを示唆している。一方、JSC-S とガラスビーズは、同程度の輻射伝導率を持つことがわかった。すなわち、熱輻射に対する粒子形状の影響は小さく、球形として近似したモデルを適用することが可能である。
以上は実験結果からの示唆であるが、本発表では粒子サイズ分布と粒子形状の効果に関しての理論的考察についても紹介する。