日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS11] 惑星科学

2016年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 104 (1F)

コンビーナ:*濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、鎌田 俊一(北海道大学 創成研究機構)、座長:野田 寛大(国立天文台)、鎌田 俊一(北海道大学 創成研究機構)

14:15 〜 14:30

[PPS11-27] エンケラドスの軌道進化と潮汐加熱

*中嶋 彩乃1井田 茂1木村 淳2 (1.東京工業大学理工学研究科地球惑星科学専攻、2.東京工業大学地球生命研究所)

キーワード:エンケラドス、潮汐加熱、軌道進化、平均運動共鳴

エンケラドスは土星中型衛星の中で唯一熱的に活発な天体として知られているが、質量、位置関係からも他天体に比べて特別な要素がなく、その理由は明らかになっていない。本研究では、新たに示唆された土星の散逸係数QSaturn=1680を用いて土星中型衛星の潮汐軌道進化を計算し、潮汐加熱による熱量の推定を行った。
探査機カッシーニにより、エンケラドスから約16GWの赤外放射が観測された (Howett et al. 2011)。しかし、一般的に用いられてきたQSaturn=18000を用いた場合、平衡の熱放出の見積もりは1.1 GWとなり、観測値を説明することができず、間欠的な熱放出などが考えられていた。近年、アストロメトリ法を用いた分析によって、QSaturn=1680が示唆された (Lainey et al. 2010)。
QSaturn=1680の場合、土星円盤は後から捕獲された天体が潮汐破壊を受けることによって形成され、土星中型衛星はその円盤の縁から形成されたと考えることになる (Charnoz et al. 2011)。この場合、エンケラドスの方がテティスより早くリングから形成される。その結果、エンケラドスとテティスは潮汐軌道進化において、必ず軌道が接近することになる。
われわれの軌道計算によれば、軌道が接近する時、平均運動共鳴に捕獲される。テティスはエンケラドスと比較して質量が大きく潮汐軌道進化が速いので、エンケラドスはこの共鳴関係を維持したままテティスの軌道進化に引きずられ、離心率が永年的に大きく増加し、やがて軌道交差を起こし、エンケラドスはテティスの内側に飛ばされて、現在の軌道順序になる。内側に飛ばされた後は、エンケラドスの軌道はテティスから離れ、エンケラドスの大きな離心率は衛星自身の潮汐により減衰される。その際に莫大なエネルギー散逸が起こり、現在の16GWの熱放射を説明できる可能性があるとわかった。このようなプロセスはエンケラドスのみで起こるため、エンケラドスのみが熱的に活発であることが説明できる。