17:15 〜 18:30
[PPS11-P10] 磁場勾配によって誘導される並進運動を用いた太陽系物質粒子の非破壊同定
キーワード:非破壊同定、並進運動、磁場勾配力、微小重力、揮発性粒子
近年,私たちは磁場勾配力による並進運動を利用した新しい磁化測定法を確立し,これに基づく物質同定法を提案した.すなわち重力の無視できる希薄な空間に開放した固体粒子は,誘導される磁気的エネルギーのため,永久磁石レベルの低磁場で並進や回転を引き起こす.この運動は体積力に由来するため,同一の磁場分布の中では、粒子の質量に依存せず物質固有の磁化率のみに依存する.物質はそれぞれ固有の磁化率を持つので,この方法で得た磁化率を文献値と対応することで、単一粒子の物質識別ができる.これまでに私たちはmm ~ sub-mmサイズの反磁性粒子について,微小重力環境下の磁場勾配中に試料を解放し,試料の並進運動で得た磁化率が文献値と一致することを確認した.この原理に基づき,私たちは,常磁性粒子に,この方法を拡張した.鉄の含有量が異なるサンカルロス産オリビン粒子とミャンマー産オリビンの粒子で分離実験を行なった.さらに今回,揮発性固体である氷(H2O) とドライアイス(CO2)についても並進運動から磁化率を得ることができた.
微小重力は室内型の小型落下ボックスを用いて発生させた.落下距離は1.8m,有効な微小重力継続時間は約0.5秒である.30×30×20cmに小型化した直方体の落下ボックス内に観測装置を配置した.装置は,小型のNdFeB磁石製の磁気回路(B <0.8T),電動アクチュエーターを装備した真空チャンバー,試料ホルダー解放信号受信装置,試料ホルダーコントローラー,電池およびハイスピードカメラで構成される.小型の磁気回路を導入することにより,試料の磁気並進運動の距離を約2cmに,さらに,粒子が終端速度に到達するまでの所要時間を0.5秒以下に短縮し,落下装置の微小重力継続時間内に測定が可能になった.
磁場による粒子の抽出・識別はこれまで自発磁化を有する一部物質に限られていたが,私たちが提案する方法は,一般の固体に拡張される展望が得られた.上記のように、この方法では原理上,(試料の運動が観測可能な限り)無制限に小さい試料の磁化率を測定することができる.有機・生化学の分野では精密分析に先立ち,有機分子の混合物をクロマトグラフィにより分子量ごとに分離する方法が確立している.無機物質でも,有機物と同様の分析過程が望まれるが,上記の磁気運動を取り入れることで,ほぼ全ての固体物質で,それが実現すると期待される.
無機物質でもこれに相当する過程が確立すれば,始原的隕石の分析のみならず, 惑星・衛星探査機に搭載するためのダスト分析装置への応用が考えられる.このような探査では,従来のサンプルリターンと並行して,探査現場での物質の存在頻度を効率的にサーベイすることが重要になる.即ち,粒子を物質毎の存在頻度とサイズ分布を効率的にデータ化することが求められる.探査機に搭載する分析装置は,小型で,測定原理が単純でしかも科学的根拠が明確であり,可能であれば非破壊分析であることが求められるが,提案する計測原理は,現時点でこれらの条件を満たす有力な解の一つと考えられる.
Reference
[1] K. Hisayoshi, S. Kanou and C. Uyeda : Phys.:Conf. Ser., 156 (2009) 012021.
[2] C. Uyeda, K. Hisayoshi, and S. Kanou : Jpn. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 064709.
微小重力は室内型の小型落下ボックスを用いて発生させた.落下距離は1.8m,有効な微小重力継続時間は約0.5秒である.30×30×20cmに小型化した直方体の落下ボックス内に観測装置を配置した.装置は,小型のNdFeB磁石製の磁気回路(B <0.8T),電動アクチュエーターを装備した真空チャンバー,試料ホルダー解放信号受信装置,試料ホルダーコントローラー,電池およびハイスピードカメラで構成される.小型の磁気回路を導入することにより,試料の磁気並進運動の距離を約2cmに,さらに,粒子が終端速度に到達するまでの所要時間を0.5秒以下に短縮し,落下装置の微小重力継続時間内に測定が可能になった.
磁場による粒子の抽出・識別はこれまで自発磁化を有する一部物質に限られていたが,私たちが提案する方法は,一般の固体に拡張される展望が得られた.上記のように、この方法では原理上,(試料の運動が観測可能な限り)無制限に小さい試料の磁化率を測定することができる.有機・生化学の分野では精密分析に先立ち,有機分子の混合物をクロマトグラフィにより分子量ごとに分離する方法が確立している.無機物質でも,有機物と同様の分析過程が望まれるが,上記の磁気運動を取り入れることで,ほぼ全ての固体物質で,それが実現すると期待される.
無機物質でもこれに相当する過程が確立すれば,始原的隕石の分析のみならず, 惑星・衛星探査機に搭載するためのダスト分析装置への応用が考えられる.このような探査では,従来のサンプルリターンと並行して,探査現場での物質の存在頻度を効率的にサーベイすることが重要になる.即ち,粒子を物質毎の存在頻度とサイズ分布を効率的にデータ化することが求められる.探査機に搭載する分析装置は,小型で,測定原理が単純でしかも科学的根拠が明確であり,可能であれば非破壊分析であることが求められるが,提案する計測原理は,現時点でこれらの条件を満たす有力な解の一つと考えられる.
Reference
[1] K. Hisayoshi, S. Kanou and C. Uyeda : Phys.:Conf. Ser., 156 (2009) 012021.
[2] C. Uyeda, K. Hisayoshi, and S. Kanou : Jpn. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 064709.