日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS11] 惑星科学

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、鎌田 俊一(北海道大学 創成研究機構)

17:15 〜 18:30

[PPS11-P14] 月面クレータの地形緩和と形成年代の関係

武藤 史樹1、*諸田 智克1春山 純一2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:クレータ、地形緩和、天体衝突、月

月面の地形は形成以後,微小天体の衝突とレゴリスの撹乱によって崩壊し,緩和していくとされる.地形緩和のタイムスケールを知ることは,表層レゴリスの移動の素過程の理解や天体衝突頻度の推定,クレータの緩和状態を用いた年代決定法の構築のために重要である.
Fassett and Thomson [JGR, 119, 2255-2271, 2014] は地形拡散モデルと実際の地形の平均プロファイルとの比較によってクレータの緩和度を評価した.さらに,表面年代とその領域に存在するクレータの緩和度の中央値の比較から月面地形の拡散速度を評価している.しかし,先行研究では表面年代と複数のクレータの緩和度の中央値との関係を見ているため,個々のクレータの形成年代と緩和度の関係は明らかになっておらず,拡散速度の見積もりも正確ではない.また,クレータの初期形状をすべてのクレータで同一と仮定しているが月面では層構造が卓越しており,形成されるクレータの形状はその層構造に強く影響されるため,個々のクレータの崩壊度を正しく評価できていない可能性がある.それらの問題をふまえ,本研究ではクレータ初期形状の多様性を評価し,個々のクレータの緩和度と年代の関係を明らかにすることを目的とし,クレータの緩和状態とクレータ噴出物の宇宙風化度を指標としたクレータ形成年代との関係を調査した.
本研究では,「かぐや」で得られた地形モデルと反射スペクトルのデータを使用した.これらを用いて,各クレータの平均地形プロファイルと宇宙風化度の指標となるOMATを算出した. クレータ緩和度を評価するために拡散プロセスに従う緩和モデルを用いて,緩和時間とクレータ形状の関係を調べ,実際の地形とのプロファイルの比較によって各クレータの緩和度を評価した.
まずクレータ初期形状を評価するために,クレータ放出物のOMAT値が0.25を超える直径1.5 km~5 kmのクレータを月の3つの海から選び出し,平均地形プロファイルを比較した.その結果,フロア高さにはクレータ間で多様性がある一方で,内壁の傾斜についてはほぼ一定であることがわかった.このことから,クレータ緩和度の指標として,クレータの深さ/直径比よりも内壁傾斜が適していることがわかった.
次に,クレータ形成年代と緩和度の関係を調べるために,Mare Serenitatisの直径1 km~2 kmの25個のクレータに対して緩和度とクレータの周りの地表のOMATの比較を行い,緩和度と形成年代をそれぞれ評価した.緩和度と放出物のOMAT値を比較したところ,両者には負の相関があり,OMAT値が高く新鮮なクレータであるほど,緩和の程度も小さいことがわかった.
試料分析やクレーターカウンティングによっていくつかの大クレータについては形成年代が調べられている.これらのクレータ放出物のOMATと形成年代の間の関係を用いて,本研究で得られた地形緩和度とOMATの関係から,月面地形拡散係数は13–31 m2/Myrと見積もられる.