17:15 〜 18:30
[PPS11-P16] 火星衛星探査計画のためのLIBSを用いた隕石判別実験
キーワード:火星衛星探査計画、LIBS、その場計測
火星にはフォボスとダイモスという2つの衛星がある。両衛星の起源は、小惑星が火星の重力によって捕獲されたという小惑星捕獲説と、初期火星に天体が衝突して、その時に飛散した火星初期物質が集積したという巨大衝突説の2つの説が存在している[1]。JAXAでは2022年に打ち上げを目標にしている火星衛星探査計画が検討されている。この計画はフォボスからサンプルリターンを行いフォボスの起源を判別することを大目標の1つとしている。起源がわかれば太陽系形成論に制約を与えることができる。起源を判別するためには、回収試料が衛星固有物質である必要があるため、フォボス全体の反射スペクトルを取得して試料採取地点を決定する。しかしフォボス表面は宇宙風化によって変成していると考えられており、粒子表面の状態を反映する反射スペクトルだけでは衛星固有物質の情報が隠されている可能性がある。また、今回の探査計画では着陸地点の粒子スケールでの地表の組成が不明であることと、回収試料を地球に持ち帰って分析するまで組成が分からないという問題がある。そこで反射スペクトルを変化させる宇宙風化の影響をほぼ受けない元素組成に着目する。私たちのグループでは元素組成を調べることのできるLIBS装置の搭載を提案し、フォボス表面で元素のその場測定を行うことで、これらの問題を解決することを試みている。
LIBS計測の実現可能性を実証するために一連の実験を行った。本実験では組成が報告されている炭素質コンドライトと火星隕石をLIBSで計測し、得られた元素組成から双方の判別可能性を検討した。これが可能であれば、フォボスの表面が小惑星に似た物質か火星に似た物質かを識別できることになる。実験系はこの計画でフォボスに着陸した時に使用される、実際の配置を想定して製作した。レーザーは出力が約12 mJで波長が1534 nmの小型のレーザーを使用し、分光器は波長範囲が約195 nmから1128 nmのものを使用した。レーザー光を集光するレンズと試料との間の距離と、分光器用の集光レンズと試料との間の距離は共に約1.5 m、集光光学系の有効径は約20 mm、試料は真空容器内に設置した。このような探査の現実的な条件の下で、S/Nの成立性なども含めて検証した。計測した試料は、Allende(炭素質コンドライト)、NWA1068(火星隕石)、Zagami(火星隕石)である。レーザーの繰り返し周波数を10 Hz、分光器の露光時間を1 sに設定し、1試料に対して16箇所で測定を行い、1箇所に対してレーザーを150回照射した。隕石の平均組成を求めるために16箇所の発光スペクトルを平均した。その平均スペクトルからはFe, Ca, Al, Mg, Si, Tiなどの主要元素の輝線が検出された。さらにAllendeの発光スペクトルから他2つの試料の発光スペクトルをそれぞれ差し引くと、Allendeに多く含まれるFe,Mgの輝線波長のところはプラスの値になり、NWA1068とZagamiに多く含まれるAl,Caの輝線波長のところはマイナスの値になった。これよりLIBS計測で得られた発光スペクトルの差は、測定試料の元素組成の差を定性的に表していることがわかり、LIBS計測で小惑星に似た物質と火星に似た物質が判別できる可能性が高いことが示せた。
実際の探査でLIBSが運用できる時間は約1時間であるとされており、短時間で計測を完了することが求められる。そこで、この時間内で本実験結果の実現可能性を検討した。1測定点あたりの焦点調整や撮像に10秒、測定点の移動に20秒かかると仮定する。また、レーザーの繰り返し周波数は電力の制約上2Hzとし、本実験の条件であった1測定点あたりのレーザー照射回数を150回、測定点を16点で計算すると、本実験と同様の測定にかかる時間は約28分となった。これより実際の探査でLIBSを運用できる時間内で本実験と同様の測定を行えることがわかった。以上の結果は、フォボス上でLIBSを用いることでフォボスの表面が小惑星に似た物質か火星に似た物質かを識別できる可能性が高いことを示している。
参考文献
[1] Fraeman, A. A., et al. (2012), J. Geophys. Res., 117, E00J15.
LIBS計測の実現可能性を実証するために一連の実験を行った。本実験では組成が報告されている炭素質コンドライトと火星隕石をLIBSで計測し、得られた元素組成から双方の判別可能性を検討した。これが可能であれば、フォボスの表面が小惑星に似た物質か火星に似た物質かを識別できることになる。実験系はこの計画でフォボスに着陸した時に使用される、実際の配置を想定して製作した。レーザーは出力が約12 mJで波長が1534 nmの小型のレーザーを使用し、分光器は波長範囲が約195 nmから1128 nmのものを使用した。レーザー光を集光するレンズと試料との間の距離と、分光器用の集光レンズと試料との間の距離は共に約1.5 m、集光光学系の有効径は約20 mm、試料は真空容器内に設置した。このような探査の現実的な条件の下で、S/Nの成立性なども含めて検証した。計測した試料は、Allende(炭素質コンドライト)、NWA1068(火星隕石)、Zagami(火星隕石)である。レーザーの繰り返し周波数を10 Hz、分光器の露光時間を1 sに設定し、1試料に対して16箇所で測定を行い、1箇所に対してレーザーを150回照射した。隕石の平均組成を求めるために16箇所の発光スペクトルを平均した。その平均スペクトルからはFe, Ca, Al, Mg, Si, Tiなどの主要元素の輝線が検出された。さらにAllendeの発光スペクトルから他2つの試料の発光スペクトルをそれぞれ差し引くと、Allendeに多く含まれるFe,Mgの輝線波長のところはプラスの値になり、NWA1068とZagamiに多く含まれるAl,Caの輝線波長のところはマイナスの値になった。これよりLIBS計測で得られた発光スペクトルの差は、測定試料の元素組成の差を定性的に表していることがわかり、LIBS計測で小惑星に似た物質と火星に似た物質が判別できる可能性が高いことが示せた。
実際の探査でLIBSが運用できる時間は約1時間であるとされており、短時間で計測を完了することが求められる。そこで、この時間内で本実験結果の実現可能性を検討した。1測定点あたりの焦点調整や撮像に10秒、測定点の移動に20秒かかると仮定する。また、レーザーの繰り返し周波数は電力の制約上2Hzとし、本実験の条件であった1測定点あたりのレーザー照射回数を150回、測定点を16点で計算すると、本実験と同様の測定にかかる時間は約28分となった。これより実際の探査でLIBSを運用できる時間内で本実験と同様の測定を行えることがわかった。以上の結果は、フォボス上でLIBSを用いることでフォボスの表面が小惑星に似た物質か火星に似た物質かを識別できる可能性が高いことを示している。
参考文献
[1] Fraeman, A. A., et al. (2012), J. Geophys. Res., 117, E00J15.