日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS11] 惑星科学

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、鎌田 俊一(北海道大学 創成研究機構)

17:15 〜 18:30

[PPS11-P18] 空隙のある天体表面の衝突脱水模擬実験

*崔 仁士1小川 諒2中村 昭子2瀬戸 雄介2小川 和律2 (1.東京大学大学院理学系研究科、2.神戸大学大学院理学研究科)

キーワード:衝突脱水、空隙率

惑星の形成と成長は,微惑星同士や小天体の衝突,集積によって起こる.このような,微惑星や小天体の衝突とそれに伴う脱水は惑星の初期大気の構成や惑星への水の供給に大きな影響を与える.このことから,天体の衝突脱水を理解することは水惑星の起源を考えるうえで重要である.また,近年,太陽系や惑星の起源を探るために小天体に関する研究が盛んに行われており,サンプルリターンを目的とする小惑星探査計画も進められている.小惑星探査機はやぶさ2は,水鉱物を含む可能性があると考えられているC型小惑星,リュウグウからのサンプルリターンを行う.持ち帰ったサンプルにおける衝突脱水の影響を議論するためにも,天体の衝突脱水についての理解は重要であるといえる.
衝突脱水に関する実験的研究は多く行われており,そのうち主な手法は固体回収実験である.この方法は,サンプルに直接弾丸を撃ち込まず,サンプルを金属密閉容器に入れその容器に弾丸をぶつけるというものである.この方法により衝突圧力に対するサンプルの脱水率が求められているが,固体回収実験ではサンプルを容器に入れて実験を行うため自然な天体表面での衝突過程をよく模擬しているとは言いがたい.また,脱水率とサンプルの空隙率の関係に焦点を置いた実験もなされているが,その関係の詳細は明らかではない.小惑星は様々な空隙率をもつので,小惑星の衝突脱水を考えるうえで,空隙率と脱水率の関係を明らかにすることが必要である.
本研究では,より自然に近い状態を模擬するために開放系での衝突脱水実験を行い,また,標的サンプルに空隙率の異なるいくつかの二水石膏を用いて実験を行うことで,脱水率と空隙率の関係について調査した.
蓋がないステンレス円筒容器にサンプルを入れ弾丸が直接標的サンプルに衝突するようにし,また,標的を設置したチャンバー内は0.1気圧程度まで減圧して衝突実験を行った.実験の際には,ハイスピードカメラで弾丸軌道を撮影し,その画像から衝突速度を求め,求めた衝突速度を用いてインピーダンスマッチング法により衝突圧力を求めた.弾丸にはポリカーボネートの先端に金属を取り付けた円柱弾丸を用いた.弾丸の金属部分には厚さが2.3mmのSUSと5.0mmの銅の二種類を用いた.その後,衝突により圧縮され弾丸の先端に付着したサンプルを回収し分析を行った.回収したサンプルの分析として,まずXRDによる成分測定を行い,脱水と脱水以外の組成の変化が起きているかを確認した.次に,熱重量分析を行い回収したサンプルの含水率を求め,衝突実験前の二水石膏の含水率との比較から衝突による脱水率を求めた.その後,成分測定の結果と求めた脱水率の比較,考察を行った.また,サンプルの空隙率や弾丸の厚さの違いにより,衝突圧力に対する脱水率に何か傾向や違いが見られるか考察を行った.
XRDによる成分測定の結果,実験後回収したサンプルに二水石膏の脱水反応により生成される半水石膏と無水石膏の存在が確認されたので,衝突により脱水が起こったことが確かめられた.ただし,無水石膏はほとんどの場合でわずかにしか生成されていなかった.また,脱水以外の組成の変化は見られなかった.全てのサンプルにおいて成分測定と熱重量分析の結果のよい一致が見られ,衝突による確かな脱水率が求められた.SUS弾丸で実験を行ったときよりも,同じ直径で厚さがより大きい銅弾丸で実験を行ったときの方が,脱水率が高い傾向が見られた.これは弾丸の厚さの違いからくる圧力継続時間による影響と考えられ,圧力継続時間が脱水率に関係していることが示唆された.脱水率に対する空隙率の影響は見られなかった.本研究では,より天体表面の状態に近い,開放系での衝突脱水実験でデータを得たとともにサンプルの回収方法の問題点や回収できるサンプルの量などの基礎データが得られた.