日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS11] 惑星科学

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、鎌田 俊一(北海道大学 創成研究機構)

17:15 〜 18:30

[PPS11-P30] 全球大循環モデルを用いた濃厚二酸化炭素大気における火星古気候シミュレーション

*鎌田 有紘1黒田 剛史1笠羽 康正1寺田 直樹1 (1.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:火星、古気候、大気大循環モデル

現在の火星表面には、液体が流れた跡と考えられる地形が数多く発見されている。これが液体の水によるという前提のもと、太古の火星は温暖環境であったと考えられてきた。しかし、38億年程度前、すなわち太陽日射量を現在の75%としまたより高圧の二酸化炭素大気を想定した火星大気大循環モデル[Forget et al., 2013]では、地表面気圧を7気圧程度まで上げても地表温度は最高250K程度に留まり、水の融点に達しない。
我々は、太古の火星大気環境の再現を狙い、火星大気大循環モデルDRAMATIC MGCM [e.g., Kuroda et al., 2005]を援用した同様のシミュレーションを試みた。初期試行として、まず純粋CO2大気を想定し、全球平均地表面気圧を0.1~5.1気圧の間で設定したシミュレーションを行った。Forget et al. [2013]と同様に火星の自転軸傾斜・離心率は現在と同じとし、またForget et al. [2013]では考慮していない非常に弱い(光学的厚さ0.01)ダストの放射効果を取り入れた。日射量は約38億年前の火星環境を想定して現在の75%とした。Forget et al. [2013]で導入されたCO2氷雲の放射効果は、まだ導入していない。
CO2平均大気圧が1気圧未満の場合、全球平均地表面温度は放射平衡温度である192Kにほぼ等しくなった。これは、太陽光強度がより弱い環境下では現在よりも寒冷化し、15μm帯CO2赤外吸収帯による温室効果が働きにくくなることを意味する。また、CO2平均大気圧が1気圧以上の場合は、全球平均地表面温度は気圧とともに上昇して昇華温度に近くなり、全球的な温度分布でも昇華点近傍(200-210K)の緯度領域が広がった。これは、昇華・凝結によって生じる潜熱が温度の安定化をもたらしているためと考えられる。ただしForget et al. [2013]では、平均地表面温度が我々の今回結果に比べてCO2平均大気圧が2-3気圧の時に約30K高くなり、その後は気圧とともに差は縮まっていき、5気圧でほぼ一致した。この相違の理由は2つ考えられる。1つ目は、我々のモデルに含まれないCO2氷雲の影響である。我々のモデル結果ではCO2平均大気圧3気圧以下においてCO2氷雲量が気圧とともに増大しており(3気圧以上ではほぼ一定)、光学的に厚くなることで極域赤外放射の吸収によるより大きな温室効果が生じることが考えられる。2つ目は、地表面アルベドの影響である。Forget et al. [2013]と我々のGCMではCO2積雪がある場所のアルベドの値が異なり(Forget et al. [2013]では0.5なのに対し我々のGCMでは0.65)、この影響により積雪域の面積が拡大した2-3気圧において、我々の結果では地表面温度が低温となったことが考えられる。