日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS11] 惑星科学

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、鎌田 俊一(北海道大学 創成研究機構)

17:15 〜 18:30

[PPS11-P31] 隕石重爆撃による大気・海洋量の進化

*小佐々 唯1玄田 英典2黒川 宏之2井田 茂1,2 (1.東京工業大学 理工学研究科地球惑星科学専攻、2.東京工業大学 地球生命研究所)

キーワード:隕石重爆撃、大気散逸、海散逸

地球は、巨大衝突が完了した後にも、小惑星や彗星のような小天体の衝突を多く経験したと考えられている。この小天体の衝突は、大気が宇宙空間に散逸する大気はぎ取りや、逆に小天体内の揮発性成分が地球にもたらされる供給を引き起こす。小天体の衝突は地球形成直後の時期に集中していることが想定され、さらに初期の地球で既に海が存在している可能性(Wilde et al., 2001)がある。そこで、本研究ではこの隕石重爆撃による地球の大気量・海水量への影響を明らかにすることを目的として研究を行った。さらに、この過程が地球の高いH/C(Hirschmann & Dasgupta, 2009)や、ハロゲンの枯渇(Sharp & Draper, 2013)に寄与した可能性についても考察を行った。
天体の衝突による大気のはぎ取りに関する理論的・数値的な研究はいくつか行われており(Svetsov, 2000; 2007, Shuvalov 2009; 2014)、これらの先行研究では天体が惑星に衝突するときに、はぎ取られる惑星大気や地面の質量を解析的な計算や数値計算で求め、衝突天体サイズ、衝突速度、大気圧などのパラメータへの依存性を示している。また、de Niem et al. (2012)では、Svetsov (2000)の大気はぎ取りモデルを用いて、38億年前頃に起きたとされる後期重爆撃での大気のはぎ取りと供給の計算をMonte Carlo法を用いて計算している。地球質量のおよそ0.01%までの隕石を降らせ、結果として、大気はぎ取りよりも揮発性元素の供給が上回り大気圧が上昇することを示している。しかし、大気はぎ取りモデルに対する結果の依存性や、海水量の進化については調べられていない。
そこで本研究では、先行研究で示された1回の衝突による大気はぎ取りモデル(Svetsov 2000, 2007; Shuvalov 2009, 2014)と衝突天体のサイズ分布・速度分布に関するMonte Carlo計算を用いて、隕石重爆撃による大気と海の進化を同時に計算した。地球に降ってくる天体の総量として隕石重爆撃期の衝突天体の総量である地球質量の1%を仮定した。海のはぎ取りに関しては、Shuvalov (2009)の地面はぎ取りのモデルを用いた。衝突天体のサイズ分布としては、現在観測されている小惑星帯の小惑星のサイズ分布を用い、衝突速度に関しては、小惑星が地球に衝突する際の衝突速度を計算したモデル速度分布を用いた。揮発性成分については、3通りの値で別々に計算を行った。
結果として、Svetsov (2000, 2007)のモデルでは大気は多くはぎ取られ、初期大気圧に関わらず、大気圧は一定値に収束する傾向が見られた。収束する値は衝突天体内の揮発性成分の量に依存した。しかしShuvalov (2014)では大気のはぎ取りはあまり起きず、大気量の進化は大気はぎ取りモデルに大きく依存することが明らかとなった。また、海のはぎ取りに用いたShuvalov (2009)の地面はぎ取りモデルは大気圧に依存するが、今回の計算では結果として海水量の進化に対する大気圧の影響は小さかった。大気のはぎ取りと比較して海のはぎ取りの効率は低いことから、最終的な海水量は初期海水量と衝突天体の含水率に依存するという結果が得られた。
本研究のSvetsov (2000, 2007)モデルを用いた結果では、海よりも大気のはぎ取りが効率よく起こっているので、隕石衝突によって地球のH/Cが増加する可能性が示された。また、原始大気が多くはぎ取られることから、H-Heの円盤ガスを原始大気として地球が獲得していた(Ikoma & Genda 2006)としても、隕石重爆撃によるはぎ取りで0.0001〜10%しか残らない可能性がある。さらに、今回のモデルでは初期海洋のうちはぎ取られた割合は20%程度であったことから、隕石重爆が少なくとも部分的には地球のハロゲンの枯渇に寄与している可能性がある。