日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS12] 太陽系における惑星物質の形成と進化

2016年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 104 (1F)

コンビーナ:*宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)、山口 亮(国立極地研究所)、臼井 寛裕(東京工業大学地球惑星科学科)、癸生川 陽子(横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門)、藤谷 渉(茨城大学 理学部)、瀬戸 雄介(神戸大学大学院理学研究科)、伊藤 正一(京都大学大学院理学研究科)、座長:宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)

09:00 〜 09:15

[PPS12-01] 管状炉型雰囲気制御ガス浮遊システムの開発: コンドリュール組織の再現を目指して

*鈴木 康太1庄田 直起1市村 隼1瀬戸 雄介1 (1.神戸大学大学院理学研究科)

キーワード:コンドリュール、ガス浮遊法、結晶成長

コンドリュールは、主にケイ酸塩鉱物で構成される直径0.1 ~ 10 mm程度の球状組織である。太陽系形成初期に、固体微粒子の集合体が、瞬間的な加熱イベントによって(部分)溶融した後、急速な冷却によって形成したと考えられている。コンドリュール内部の様々な凝固組織(例えば斑状カンラン石, 棒状カンラン石, 放射状輝石など)は、円盤中における微粒子の化学組成、周囲のガス種・分圧、最大加熱温度、加熱・冷却速度などを反映しており、当時の太陽系の情報を得る重要な手掛かりと考えられている。コンドリュール形成を再現する実験は数多く行われているものの、その形成場 (真空・無重力・無接触状態)を模擬することは技術的に困難な点が多く、実験的な制約は十分に行われていない。レーザー加熱ガス浮遊法は、ノズルから噴き出す上昇ガスによって試料を空中で保持し、レーザーで試料を加熱するという比較的単純なシステムであり、材料科学の分野で広く用いられている。無接触状態での溶融・冷却を実現できるため、コンドリュール組織を再現する有力な手法であるが、雰囲気・温度制御が難しいという問題があった。そこで本研究では、精密な雰囲気・温度制御下におけるコンドリュール組織の再現を目指し、縦型管状炉にガス浮遊装置を組み込んだシステムの新規開発を行った。
開発した装置の概要は以下のとおりである。加熱システムにはシリコニット社製複ら管型管状炉(4.5 KW, 最高温度1600 ℃)を使用した。外側の炉心管(高純度アルミナ製、内径50 mm、内径42 mm)の内部に細い炉心管(外径32 mm、内径26 mm)を挿入し、さらに細い炉心管の上部にはカーボン製のノズル(ガス噴出穴径1 mm)を装着する。外側と内側の炉心管の下部には独立にガス導入口を備えており、デジタルマスフローコントローラによってガス流量を制御したH2+CO2+Ar混合ガスを導入することで、還元雰囲気を実現するとともにノズル部(カーボン)の損耗をふせぐ。内部の炉心管はノズル部と共にモーター制御パンタグラフによって昇降し、試料交換位置と最高温度位置をスムースに移動する。この昇降システムによって、幅広い加熱・冷却速度(10E0 – 10E6 K/hr)を実現することが可能となる。また、炉の上部には光学定盤を設置し、ミラーを介した長焦点CCDカメラ(焦点距離2000 mm、視野領域~10 mm)によって、加熱浮遊中の試料を観察する。また1200 ℃を超えるような温度では、試料および周辺部の輻射が顕著となり像観察が困難となる。そのため、カメラ直前に500 nm以上の波長をカットするダイクロイックフィルターを設置し、さらに高出力LED光源(10 W)を用いた青色光(~480 nm)を集光して試料部に近軸落射することで、高温でも明瞭な撮影を可能にした。開発した新型浮遊装置の性能を評価するため、アルバイト(NaAlSi3O8)組成ガラスを出発物質とした実験を行った。アルバイトガラスは定比で酸化物を混合しマッフル炉で溶融急冷させた後、直径1~2 mmの球状に加工したものを用いた。1100-1200 ℃の温度域で0.1 l/min程度の流量で安定した浮遊に成功した。回収試料はガラス光沢の真球状であり、内部には微小(<1 μm)なシリカ鉱物やコランダムが表面部に析出している様子が観察された。本研究で開発した手法は、惑星物質の溶融急冷組織の再現実験として非常に有効である。発表では他の系での実験結果や詳細な結晶学的データも合わせて議論する。