日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS12] 太陽系における惑星物質の形成と進化

2016年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 104 (1F)

コンビーナ:*宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)、山口 亮(国立極地研究所)、臼井 寛裕(東京工業大学地球惑星科学科)、癸生川 陽子(横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門)、藤谷 渉(茨城大学 理学部)、瀬戸 雄介(神戸大学大学院理学研究科)、伊藤 正一(京都大学大学院理学研究科)、座長:宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)

09:45 〜 10:00

[PPS12-04] ヴィガラノ隕石fluffy Type A CAIに記録された初期太陽系円盤の酸素同位体組成変化のAl-Mg年代学

*川崎 教行1伊藤 正一2坂本 直哉3圦本 尚義1,3 (1.北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門、2.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、3.北海道大学創成研究機構)

キーワード:Al-Mg年代、Ca-Al-rich inclusion、SIMS、酸素同位体、初期太陽系円盤

隕石に含まれるCAI (Ca-Al-rich inclusion)は高温鉱物から成る太陽系最古の岩石である (Connelly et al., 2012)。CAIの構成鉱物は,CCAM (carbonaceous chondrite anhydrous mineral) ライン上に分布した不均一な酸素同位体組成を示す (Clayton et al., 1977)。CAIの鉱物内・鉱物間における不均一な酸素同位体組成は,CAIが,異なる酸素同位体組成をもつガス環境下 (Itoh and Yurimoto, 2003)において受けた熱プロセス (部分溶融や凝縮,固体中の拡散)や,母天体における二次変成作用により形成したと説明されている (e.g., Yurimoto et al., 1998; Kawasaki et al., 2015)。とくにfluffy Type A CAIは,初期太陽系星雲ガスから直接凝縮した固体の集合体であると考えられており (MacPherson and Grossman, 1984),その構成鉱物の酸素同位体組成の不均一は,初期太陽系円盤のガスの酸素同位体組成変化に対応している (Katayama et al., 2012)。本研究では,初期太陽系円盤のガスの酸素同位体組成変化に年代学的制約を与えるために,fluffy Type A CAIの岩石鉱物学的観察と構成鉱物の酸素同位体分析,Al-Mg年代測定を行った。酸素,Al-Mg同位体分析はSIMS (Cameca ims-1280HR)を用いて行った。
試料に用いた,ヴィガラノ隕石(CV3コンドライト)産のCAI,V2-01は,約7 mmの大きさをもち,fluffy Type Aに分類される.このCAIは主にメリライトから構成され,スピネル,ファッサイトが少量見られる。メリライト結晶は50から600 μmの大きさをもち,逆累帯構造を示す。そのいくつかは,スピネルとファッサイトを結晶内に含む。V2-01は不規則な形状をもち,インクルージョン周囲は,メリライト,スピネル,アノーサイト,ディオプサイドの鉱物レイヤーから成る,ワークラバリングリム (Wark and Lovering, 1977)で囲まれている。以上の観察からV2-01構成鉱物の形成順序は,メリライト結晶に囲まれたスピネルとファッサイト,次にメリライト,最後にワークラバリングリム構成鉱物であったと考えられる。
メリライトに囲まれたスピネルは,16Oに富む酸素同位体組成 (Δ17O ~ −24‰)を示し,(26Al/27Al)0 = (5.6 ± 0.2) ×10-5のモデルアイソクロン上にプロットされた。メリライトに囲まれたファッサイトは,酸素同位体組成のバリエーション (Δ17O ~ −12と−17‰) を示し,同じく(26Al/27Al)0 = (5.6 ± 0.2) ×10-5のモデルアイソクロン上にプロットされた。メリライト結晶は,逆累帯構造の結晶成長に沿った酸素同位体組成の連続的な変化をもつことが先行研究により示されている (Katayama et al., 2012)。凝縮物であるメリライト結晶の酸素同位体組成が,結晶中心部分の16Oに乏しい組成 (Δ17O > −10‰)からリム部分の16Oに富む組成 (Δ17O ~ −25‰)へと連続的に変化することから,周囲の星雲ガスが,メリライト結晶成長中に,16Oに乏しい組成から富む組成へと変化していたことが示唆される。本研究では6つのメリライト結晶それぞれのAl-Mgアイソクロンを求めることに成功した。それら全てのアイソクロンは誤差内で等しく,その平均の26Al初生同位体比は (26Al/27Al)0 = (4.7 ± 0.3) × 10−5であった。この値は内包するスピネルとファッサイトのものよりも明らかに小さく,メリライトの形成年代がスピネルとファッサイトより若いことを示す。一方ワークラバリングリムのスピネルとディオプサイドは,ともに16Oに富む酸素同位体組成 (Δ17O ~ −23‰)を示し,鉱物アイソクロンが示す26Al初生同位体比は (26Al/27Al)0 = (4.5 ± 0.4) × 10−5であった。以上のV2-01構成鉱物それぞれの26Al初生同位体比の変化は,岩石鉱物学的観察から示唆された形成順序と調和的である。26Al初生同位体比の変化の幅から,V2-01 CAIは,18 ± 7万年かけて形成したと見積もられる。以上の結果から,初期太陽系円盤においてCAI周囲のガスが,16Oに富む組成から乏しい組成に変化し,再度16Oに富む組成へと変化しており,それが太陽系誕生からおよそ20万年の間に起きていたことが明らかになった。