11:15 〜 11:30
[PPS12-09] NWA 1232 CO隕石中のCO3.0-likeクラストに見られる水質変成の痕跡
キーワード:CO隕石、角礫岩化、水質変成、熱変成、Fe-Niメタル、TEM
これまで,水質変成や角礫岩化の痕跡を示すCO隕石はほとんど報告されないため,CO母天体はドライで静的な天体と考えられてきた。しかし,2001年に発見されたNWA 1232隕石は,熱変成度の異なる3つのCO岩相(A,B,C)からなり,明瞭な角礫岩組織を示す[1]。岩相A,B,Cの岩石学的タイプはそれぞれ3.5,3.7,3.3である。最近我々は,NWA 1232隕石の岩相Aが多数の小さな(径 100−1800 µm)CO岩相のクラストを含むことを明らかにした[1]。クラストの多くは極めて熱変成度が低い岩石学的タイプ3.0に似た(CO3.0-like)鉱物学的特徴を示す。岩石学的タイプ3.0の隕石は,母天体が星雲から集積したままの状態を保持していると考えられている。本研究では,NWA 1232隕石の形成過程の解明を目指し,岩相A中のCO3.0-likeクラストの鉱物学的特徴を詳細に調べた。
クラストは岩相A内の広い範囲に多数分布している。多くは単一のコンドリュールとその周りをリムのように囲む細粒なマトリックス物質からなるが,複数のコンドリュールやCAIを含むものも少数存在する。
クラスト内のコンドリュールはほとんどがType Iであり,オリビン斑晶は均質(~Fa1)である。このような特徴は,岩石学的タイプ3.0に相当する。岩石学的タイプ3.0の隕石は,熱変成の程度によりさらに細かく分類されている。本研究では,コンドリュール中のFe-Niメタルの組織と組成を基にクラストの熱変成度を見積もった。一般的にメタルノジュールは,初生の均質なマルテンサイト組織から,熱変成の初期段階でカマサイト中にnmサイズのNi-richメタルを高密度で含むプレサイト組織に変化し,さらにµmサイズのNi-richメタルを低密度で含む組織へと変化する[2]。クラスト内のメタルノジュールは,カマサイト中にNi-richメタルを含み,Ni-richメタルの粒子サイズ(断面積 1.63±3.91 µm2)はSemarkona隕石(type 3.01)に比べ大きく,type 3.03−3.05隕石より小さい。一方,メタルノジュール内のNi-richメタルの数密度(0.060±0.079 N/µm2)はSemarkona隕石に比べ小さく,type 3.03−3.05隕石と同程度である。また,メタル中の微量元素(Si, P, Cr, Co)組成は,type 3.03−3.05の隕石に近い。以上の結果から,クラストはtype 3.02−3.05相当の岩相と考えられる。
また,クラストには顕著な水質変成の痕跡がみられた。コンドリュール表面付近のケイ酸塩斑晶やメソスタシスは,微小な(10−20 nm)層状ケイ酸塩鉱物とO,Fe,Si,Mg,Alに富む非晶質物質に交代しており,これらの変成物質中にはFeに富む脈が形成されている。ケイ酸塩斑晶を交代している層状ケイ酸塩鉱物のほとんどはサーペンティンであるが,メソスタシスではサーペンティンの他にスメクタイトも比較的多く形成されている。一方,クラスト内のマトリックス物質は,大部分O,Si,Fe,Mg,Alに富む非晶質物質からなり,粗粒な(1−2 µm)マグネタイト,フォルステライト,エンスタタイト,細粒な(100−500 nm)オリビン,トロイライト,微小な(10−20 nm)サーペンティンを含む。また,Cに富む球形の非晶質物質(径100−200 nm)が少量含まれている。これはCI,CM隕石などから報告されている有機ナノグロビュール[e.g. 3]である可能性がある。
以上の結果から,NWA 1232母天体には熱変成度が極めて低く水質変成を経験した領域が存在し,クラストはそのような領域で形成されたと考えられる。ALHA 77307 CO3.0隕石やY-81020 CO3.0隕石にも層状ケイ酸塩が見つかっており[4, 5],CO母天体の熱変成度の低い領域では広く水質変成が起こっていた可能性がある。NWA 1232母天体の熱変成度の低い領域の一部は角礫岩化し,この作用により細かく破砕され分離したクラストがホストである岩相Aを成す物質と混合したと考えられる。
参考文献: [1] Matsumoto et al. (2015), JpGU Meeting (abstract). [2] Kimura et al. (2008), MAPS, 43, 1161−1177. [3] Nakamura et al. (2006), Science, 314, 1439−1442. [4] Brearley (1993), GCA, 57, 1521−1550. [5] Moriya et al. (2013), JpGU Meeting (abstract).
クラストは岩相A内の広い範囲に多数分布している。多くは単一のコンドリュールとその周りをリムのように囲む細粒なマトリックス物質からなるが,複数のコンドリュールやCAIを含むものも少数存在する。
クラスト内のコンドリュールはほとんどがType Iであり,オリビン斑晶は均質(~Fa1)である。このような特徴は,岩石学的タイプ3.0に相当する。岩石学的タイプ3.0の隕石は,熱変成の程度によりさらに細かく分類されている。本研究では,コンドリュール中のFe-Niメタルの組織と組成を基にクラストの熱変成度を見積もった。一般的にメタルノジュールは,初生の均質なマルテンサイト組織から,熱変成の初期段階でカマサイト中にnmサイズのNi-richメタルを高密度で含むプレサイト組織に変化し,さらにµmサイズのNi-richメタルを低密度で含む組織へと変化する[2]。クラスト内のメタルノジュールは,カマサイト中にNi-richメタルを含み,Ni-richメタルの粒子サイズ(断面積 1.63±3.91 µm2)はSemarkona隕石(type 3.01)に比べ大きく,type 3.03−3.05隕石より小さい。一方,メタルノジュール内のNi-richメタルの数密度(0.060±0.079 N/µm2)はSemarkona隕石に比べ小さく,type 3.03−3.05隕石と同程度である。また,メタル中の微量元素(Si, P, Cr, Co)組成は,type 3.03−3.05の隕石に近い。以上の結果から,クラストはtype 3.02−3.05相当の岩相と考えられる。
また,クラストには顕著な水質変成の痕跡がみられた。コンドリュール表面付近のケイ酸塩斑晶やメソスタシスは,微小な(10−20 nm)層状ケイ酸塩鉱物とO,Fe,Si,Mg,Alに富む非晶質物質に交代しており,これらの変成物質中にはFeに富む脈が形成されている。ケイ酸塩斑晶を交代している層状ケイ酸塩鉱物のほとんどはサーペンティンであるが,メソスタシスではサーペンティンの他にスメクタイトも比較的多く形成されている。一方,クラスト内のマトリックス物質は,大部分O,Si,Fe,Mg,Alに富む非晶質物質からなり,粗粒な(1−2 µm)マグネタイト,フォルステライト,エンスタタイト,細粒な(100−500 nm)オリビン,トロイライト,微小な(10−20 nm)サーペンティンを含む。また,Cに富む球形の非晶質物質(径100−200 nm)が少量含まれている。これはCI,CM隕石などから報告されている有機ナノグロビュール[e.g. 3]である可能性がある。
以上の結果から,NWA 1232母天体には熱変成度が極めて低く水質変成を経験した領域が存在し,クラストはそのような領域で形成されたと考えられる。ALHA 77307 CO3.0隕石やY-81020 CO3.0隕石にも層状ケイ酸塩が見つかっており[4, 5],CO母天体の熱変成度の低い領域では広く水質変成が起こっていた可能性がある。NWA 1232母天体の熱変成度の低い領域の一部は角礫岩化し,この作用により細かく破砕され分離したクラストがホストである岩相Aを成す物質と混合したと考えられる。
参考文献: [1] Matsumoto et al. (2015), JpGU Meeting (abstract). [2] Kimura et al. (2008), MAPS, 43, 1161−1177. [3] Nakamura et al. (2006), Science, 314, 1439−1442. [4] Brearley (1993), GCA, 57, 1521−1550. [5] Moriya et al. (2013), JpGU Meeting (abstract).