11:30 〜 11:45
[PPS12-10] 流体組成が規定する酸化還元条件と始原的惑星物質の水質変成過程
キーワード:水質変成、炭酸塩鉱物、層状ケイ酸塩鉱物、酸素分圧
はじめに 始原的隕石に見出される層状ケイ酸塩鉱物や炭酸塩鉱物の存在量や産状,組成,組織等は極めて広い多様性を示すことが知られている。それはすなわち,原始太陽系で起こった水質変成過程が多様な条件で起こっていたことを示唆している。原始太陽系内のどのような場で,どのような組成を持つ流体相によって水質変成現象が起こっていたかについての理解は,固体惑星物質のみならず原始太陽系における揮発成分の分布とその変遷の解明につながると考えられる。本研究では,高温の原始太陽系星雲ガスの冷却による凝縮相として形成され始原的隕石物質が,微惑星から準惑星クラスに至る天体上で受けた流体相との反応を再現することを目的として,多様なH2O,CO2及び炭化水素組成を持つ流体を用いた水質変成実験を行った。
実験 出発物質は,水質変成を受けていない始原的隕石物質を代表するものとしてAllende隕石粉末を用いた。流体組成を規定する要因としては,太陽系元素存在度に基づいて,酸素がケイ酸塩鉱物及び流体相に分配されているとの仮定を置き,さらにCはCO2と炭化水素相に様々な比で分配されるとした。また,原始太陽系星雲ガスの影響をより強く受けたであろう隕石母天体上での水質変成過程と,準惑星クラスの天体上に存在した流体組成の推定に基づいた流体による変質過程の比較を行った。また,微惑星や原始惑星にH2Oの氷を主成分とする天体が遅れて集積した場合を想定して,H2O量の変動が水質変性過程に与える影響についても検討した。
実験温度は100Cから300C,実験期間は3から最大24週である。水質変成に関与する流体が示す酸化還元条件は,H2O,CO2及び炭化水素組成によって規定されていると考えられる。酸素分圧は,炭化水素相を代表するものとして用いたC2H5OHと,H2O-CO2間の平衡によって推定した。実験は,金キャプセルにAllende隕石粉末とエタノール溶液及びCO2供給源のシュウ酸銀を封入し,温度条件に対応した圧力容器を用いて,飽和水蒸気圧または超臨界圧の条件で保持することによって行った。
結果および考察 微惑星を想定した,太陽系元素存在度に忠実な元素組成において,CO2よりも炭化水素に富む流体組成を用いた実験では,炭酸塩鉱物は過渡的に形成されるのみであった。また,層状ケイ酸塩鉱物の形成も抑制された。一方,氷天体の付加的な集積を想定してH2O量を過剰とした実験では,CO2と炭化水素にCが等しく配分されたことを仮定した流体との反応において,200C以上で層状ケイ酸塩鉱物が顕著に形成された。しかし,炭酸塩鉱物は150Cでのみ時間と共に増加し,200C以上では8週以下の実験期間の生成物にのみ観察された。
準惑星クラスの天体を想定し,Mousis and Alibert (2005)に基づいた流体組成を用いた実験では,200C未満の温度でMg-Fe系炭酸塩鉱物が,200C以上の温度でankeriteまたはcalciteが生成した。また,層状ケイ酸塩鉱物のMg-Fe比についても,200C未満ではよりFeに富む組成を,200C以上ではMgに富む組成を示した。この系の実験で用いた流体組成は,微惑星を想定した実験で用いた流体組成よりもさらにH2O存在量が高く,炭化水素相が少ない組成である。
本研究で用いた流体組成において,熱力学パラメータにより推定される酸素分圧はH2O存在量が大きいほど高くなる傾向を示す。これは,出発物質に含まれる金属相,硫化物相の反応性が高くなること,及び生成物である炭酸塩鉱物相及び層状ケイ酸塩鉱物相のMg-Fe比がより鉄に富む組成を示すことと整合的である。さらに,H2O相の増加は,炭酸塩鉱物及び層状ケイ酸塩鉱物の形成を強く促進する。炭酸塩鉱物の形成が,CO2相の量よりもむしろH2O量に依存することは,原始太陽系における水質変成過程を特徴付けるものと考えられる。
実験 出発物質は,水質変成を受けていない始原的隕石物質を代表するものとしてAllende隕石粉末を用いた。流体組成を規定する要因としては,太陽系元素存在度に基づいて,酸素がケイ酸塩鉱物及び流体相に分配されているとの仮定を置き,さらにCはCO2と炭化水素相に様々な比で分配されるとした。また,原始太陽系星雲ガスの影響をより強く受けたであろう隕石母天体上での水質変成過程と,準惑星クラスの天体上に存在した流体組成の推定に基づいた流体による変質過程の比較を行った。また,微惑星や原始惑星にH2Oの氷を主成分とする天体が遅れて集積した場合を想定して,H2O量の変動が水質変性過程に与える影響についても検討した。
実験温度は100Cから300C,実験期間は3から最大24週である。水質変成に関与する流体が示す酸化還元条件は,H2O,CO2及び炭化水素組成によって規定されていると考えられる。酸素分圧は,炭化水素相を代表するものとして用いたC2H5OHと,H2O-CO2間の平衡によって推定した。実験は,金キャプセルにAllende隕石粉末とエタノール溶液及びCO2供給源のシュウ酸銀を封入し,温度条件に対応した圧力容器を用いて,飽和水蒸気圧または超臨界圧の条件で保持することによって行った。
結果および考察 微惑星を想定した,太陽系元素存在度に忠実な元素組成において,CO2よりも炭化水素に富む流体組成を用いた実験では,炭酸塩鉱物は過渡的に形成されるのみであった。また,層状ケイ酸塩鉱物の形成も抑制された。一方,氷天体の付加的な集積を想定してH2O量を過剰とした実験では,CO2と炭化水素にCが等しく配分されたことを仮定した流体との反応において,200C以上で層状ケイ酸塩鉱物が顕著に形成された。しかし,炭酸塩鉱物は150Cでのみ時間と共に増加し,200C以上では8週以下の実験期間の生成物にのみ観察された。
準惑星クラスの天体を想定し,Mousis and Alibert (2005)に基づいた流体組成を用いた実験では,200C未満の温度でMg-Fe系炭酸塩鉱物が,200C以上の温度でankeriteまたはcalciteが生成した。また,層状ケイ酸塩鉱物のMg-Fe比についても,200C未満ではよりFeに富む組成を,200C以上ではMgに富む組成を示した。この系の実験で用いた流体組成は,微惑星を想定した実験で用いた流体組成よりもさらにH2O存在量が高く,炭化水素相が少ない組成である。
本研究で用いた流体組成において,熱力学パラメータにより推定される酸素分圧はH2O存在量が大きいほど高くなる傾向を示す。これは,出発物質に含まれる金属相,硫化物相の反応性が高くなること,及び生成物である炭酸塩鉱物相及び層状ケイ酸塩鉱物相のMg-Fe比がより鉄に富む組成を示すことと整合的である。さらに,H2O相の増加は,炭酸塩鉱物及び層状ケイ酸塩鉱物の形成を強く促進する。炭酸塩鉱物の形成が,CO2相の量よりもむしろH2O量に依存することは,原始太陽系における水質変成過程を特徴付けるものと考えられる。