14:15 〜 14:30
[PPS12-15] NWA 801 CR2隕石中の有機物粒子の水素同位体組成とラマンスペクトル
キーワード:炭素質コンドライト、有機物、ラマンスペクトル、水素同位体組成
[はじめに]
炭素質コンドライトは最大3-4%の有機物を含み,その大部分は不溶性有機物 (IOM)である [1]。これまで,IOMや炭素質コンドライトマトリックス中から著しく重水素 (D)に富む有機物粒子が同定されている [e.g. 2, 3]。これらは,分子雲や原始太陽系星雲外縁部の極低温領域で形成され,地球外有機物の形成や進化過程を記録した始原的な有機物であると考えられている [e.g. 3]。
我々は先行研究で,NWA 801 (CR2)隕石マトリックスから,Dに富む (D-rich)有機物粒子を多数同定し,それらの水素同位体組成および形状が多様であることを示した [e.g. 3]。NWA 801隕石マトリックスには,Dの著しい過剰を示さない (Less D-rich)有機物粒子も見られた [3]。IOMのDの過剰は,変質や変成で減少することが示唆されているため [e.g. 4],水素同位体組成は有機物の進化過程を紐解く重要なトレーサーとなる。また,有機物のラマンスペクトルは変成度の重要なパラメーターとなることが知られている [5]。本研究では,NWA 801隕石中のD-richまたはLess D-richな有機物粒子について,水素同位体組成とラマンスペクトルの比較を行い,それらの進化過程について議論した。
[実験]
NWA 801隕石の研磨薄片 [3]のマトリックス領域に対し,北海道大学の同位体顕微鏡 (SIMS (Cameca ims-1270)+SCAPS)を用いて水素同位体イメージングを行った。物質の水素同位体比 (2 sigma)がマトリックス物質の水素同位体比 (3 sigma)と区別出来る場合,「D-rich」な物質と定義し,区別できない場合「Less D-rich」な物質と定義した。Less D-rich有機物のH/C比の平均値が,CR2コンドライトIOMの平均値 [4]に相当すると仮定し,SIMSで取得したH–とC–の二次イオンカウントの比から有機物のH/C比を見積もった。有機物の観察にはFE-SEM-EDSを用いた。北海道大学オープンファシリティの顕微ラマンマイクロスコープ (Renishaw Invia Reflex Raman microscope)を用い,有機物のラマン分析を行った。レーザー (Nd: YVO4)の励起波長は532 nm, スポット径は約1 µmであり,強度は 300 µW以下で分析を行った。
[結果と考察]
Less D-rich有機物粒子は,nmサイズであり,それらの産状は D-rich有機物粒子の産状 (ケイ酸塩や酸化物を内包したリング状の有機物 (ring globule), 複数の粒子による集合体 (globule aggregate),丸い粒子 (round globule),不規則な形状の粒子 (irregular-shaped globule)) [3]と類似していた。
Less D-rich有機物粒子は,D-rich有機物粒子と類似したH/C比 (多くの場合 1.5以下)を示した。IOMのH/C比は,変質や変成で減少する傾向が報告されている [4]。本研究の結果は,NWA 801隕石のLess D-rich有機物粒子は,D-rich有機物粒子が変質や変成によりDの過剰を失った物質ではないことを示唆する。D-rich有機物粒子,Less D-rich有機物粒子,マトリックスのラマンスペクトルは,”Dバンド” (1400 cm-1 付近) と”Gバンド” (1550 cm-1 付近)を示した。”Dバンド”,”Gバンド”の強度比と半値幅,ピーク位置についてコンドライトIOM [5]と比較した結果,D-rich有機物粒子は,Less D-rich有機物とマトリックスよりも変成度が高いことが示唆された。NWA 801隕石の有機物粒子はnmサイズでありマトリックス中に散逸している [3]ことを考慮すると,D-rich有機物粒子は,隕石母天体に取り込まれる前の原始太陽系星雲中で,Less D-rich有機物粒子よりも強い熱変成 (温度が高いあるいは変成期間が長い)を経験したのではないかと考えられる。
[引用文献]
[1] Gilmour (2003) In Meteorites, Comets and Planets p.269. [2] Busemann et al. (2006) Science 312, 727. [3] Hashiguchi et al. (2013) GCA 122, 306. [4] Alexander et al. (2007) GCA 71, 4380. [5] Busemann et al. (2007) MAPS 42, 1387.
炭素質コンドライトは最大3-4%の有機物を含み,その大部分は不溶性有機物 (IOM)である [1]。これまで,IOMや炭素質コンドライトマトリックス中から著しく重水素 (D)に富む有機物粒子が同定されている [e.g. 2, 3]。これらは,分子雲や原始太陽系星雲外縁部の極低温領域で形成され,地球外有機物の形成や進化過程を記録した始原的な有機物であると考えられている [e.g. 3]。
我々は先行研究で,NWA 801 (CR2)隕石マトリックスから,Dに富む (D-rich)有機物粒子を多数同定し,それらの水素同位体組成および形状が多様であることを示した [e.g. 3]。NWA 801隕石マトリックスには,Dの著しい過剰を示さない (Less D-rich)有機物粒子も見られた [3]。IOMのDの過剰は,変質や変成で減少することが示唆されているため [e.g. 4],水素同位体組成は有機物の進化過程を紐解く重要なトレーサーとなる。また,有機物のラマンスペクトルは変成度の重要なパラメーターとなることが知られている [5]。本研究では,NWA 801隕石中のD-richまたはLess D-richな有機物粒子について,水素同位体組成とラマンスペクトルの比較を行い,それらの進化過程について議論した。
[実験]
NWA 801隕石の研磨薄片 [3]のマトリックス領域に対し,北海道大学の同位体顕微鏡 (SIMS (Cameca ims-1270)+SCAPS)を用いて水素同位体イメージングを行った。物質の水素同位体比 (2 sigma)がマトリックス物質の水素同位体比 (3 sigma)と区別出来る場合,「D-rich」な物質と定義し,区別できない場合「Less D-rich」な物質と定義した。Less D-rich有機物のH/C比の平均値が,CR2コンドライトIOMの平均値 [4]に相当すると仮定し,SIMSで取得したH–とC–の二次イオンカウントの比から有機物のH/C比を見積もった。有機物の観察にはFE-SEM-EDSを用いた。北海道大学オープンファシリティの顕微ラマンマイクロスコープ (Renishaw Invia Reflex Raman microscope)を用い,有機物のラマン分析を行った。レーザー (Nd: YVO4)の励起波長は532 nm, スポット径は約1 µmであり,強度は 300 µW以下で分析を行った。
[結果と考察]
Less D-rich有機物粒子は,nmサイズであり,それらの産状は D-rich有機物粒子の産状 (ケイ酸塩や酸化物を内包したリング状の有機物 (ring globule), 複数の粒子による集合体 (globule aggregate),丸い粒子 (round globule),不規則な形状の粒子 (irregular-shaped globule)) [3]と類似していた。
Less D-rich有機物粒子は,D-rich有機物粒子と類似したH/C比 (多くの場合 1.5以下)を示した。IOMのH/C比は,変質や変成で減少する傾向が報告されている [4]。本研究の結果は,NWA 801隕石のLess D-rich有機物粒子は,D-rich有機物粒子が変質や変成によりDの過剰を失った物質ではないことを示唆する。D-rich有機物粒子,Less D-rich有機物粒子,マトリックスのラマンスペクトルは,”Dバンド” (1400 cm-1 付近) と”Gバンド” (1550 cm-1 付近)を示した。”Dバンド”,”Gバンド”の強度比と半値幅,ピーク位置についてコンドライトIOM [5]と比較した結果,D-rich有機物粒子は,Less D-rich有機物とマトリックスよりも変成度が高いことが示唆された。NWA 801隕石の有機物粒子はnmサイズでありマトリックス中に散逸している [3]ことを考慮すると,D-rich有機物粒子は,隕石母天体に取り込まれる前の原始太陽系星雲中で,Less D-rich有機物粒子よりも強い熱変成 (温度が高いあるいは変成期間が長い)を経験したのではないかと考えられる。
[引用文献]
[1] Gilmour (2003) In Meteorites, Comets and Planets p.269. [2] Busemann et al. (2006) Science 312, 727. [3] Hashiguchi et al. (2013) GCA 122, 306. [4] Alexander et al. (2007) GCA 71, 4380. [5] Busemann et al. (2007) MAPS 42, 1387.