日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS12] 太陽系における惑星物質の形成と進化

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)、山口 亮(国立極地研究所)、臼井 寛裕(東京工業大学地球惑星科学科)、癸生川 陽子(横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門)、藤谷 渉(茨城大学 理学部)、瀬戸 雄介(神戸大学大学院理学研究科)、伊藤 正一(京都大学大学院理学研究科)

17:15 〜 18:30

[PPS12-P12] 太陽系小天体におけるアミノ酸前駆体の形成へのガンマ線の影響の評価

*三澤 柊介1癸生川 陽子1依田 功2吉田 聡3橘 省吾4小林 憲正1 (1.横浜国立大学、2.東京工業大学、3.放射線医学総合研究所、4.北海道大学)

キーワード:隕石、小惑星、有機物、ガンマ線

地球上における生命の誕生にはアミノ酸等の有機物が必要である。そのアミノ酸の供給源の一つとして、隕石などの地球外物質が考えられている。このような隕石の多くは小惑星を起源としているため、小惑星中の有機物の起源を考える必要がある。太陽系形成初期に、塵、氷、分子雲由来の低分子有機物を含む小惑星では、26Alの放射性崩壊による熱により氷が溶けて水質変質が起こった。隕石中に存在する複雑な高分子有機物(不溶性有機物)は、このような液体の水(0〜150℃程度)が存在する環境下で形成された可能性が指摘されている[1]。この説を基に小惑星での水熱変成を模擬した実験で、ホルムアルデヒド、アンモニア、水を加熱すると隕石有機物のような高分子有機物が形成されることがわかった[2]。本研究では、水質変質過程において26Alの放射性崩壊により発生するガンマ線が有機物生成にどれだけ影響するか調べることを目的とした。
出発物質として超純水200μLに対し、モル比が水:ホルムアルデヒド:アンモニア=100:5:5になるように試験管に加え、試験管内を真空にして封緘したものに、東京工業大学の60Co線源を用いてガンマ線を様々な線量率と時間で照射した。比較のため、放医研のHIMAC重粒子線加速器を用いて重粒子線(C線:290 MeV/u)を照射したサンプルや、オーブンで加熱(150℃及び80℃,24時間)をしたサンプルも作成した。またホルムアルデヒドから糖を形成するホルモース反応の触媒となるCa(OH)2を入れた系も用意した。照射あるいは加熱後の試料はまず遠心分離により不溶性物質を回収し、CaF2プレートにのせ乾燥させた後、顕微FT-IRを用いて分析を行った。
遠心分離したサンプルの上澄みは酸加水分解をして、その前後について陽イオン交換HPLCを用いてアミノ酸分析を行ったCa(OH)2を含む系はAG 50-X8を用いて脱塩してから陽イオン交換HPLCで分析した。

酸加水分解を行ったサンプルのほとんどから、グリシン、アラニン、β-アラニンなどのアミノ酸が検出された。加水分解を行わないサンプルからはアミノ酸は検出されないか、比較的少量だった。
Ca(OH)2を含む系のアミノ酸生成量は、加熱サンプルの方がガンマ線照射サンプルよりも多かったのに対し、含まない系のアミノ酸生成量はガンマ線照射サンプルの方が加熱サンプルよりも多くなった。このことから、Ca(OH)2は熱によるアミノ酸生成に触媒効果があるが、ガンマ線によるアミノ酸の生成にはあまり影響しないと考えられる。
また、加熱サンプルはグリシンに対するアラニンの量が比較的少ないのに対し、照射サンプルはグリシンに対するアラニンの生成量が比較的多かった。これは熱と放射線による反応経路の違いによると考えられる。
また線種としてはガンマ線より重粒子線の方がアミノ酸生成量は多くなった。
出発物質にCa(OH)2を含み、150℃、24時間加熱したサンプルのみ、遠心分離後に不溶性物質が確認できた。顕微FT-IRの分析結果から、水溶性物質は不溶性物質よりも多くのアミド結合を有した構造をしていることがわかった。
[1] G.D.Cody et al.,PNAS,108,19171-19176 (2011).
[2] Y.Kebukawa et al.,Astrophysical J., 771, 19 (2013)