日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS13] 月の科学と探査

2016年5月22日(日) 10:45 〜 12:15 104 (1F)

コンビーナ:*長岡 央(早稲田大学先進理工学部)、諸田 智克(名古屋大学大学院環境学研究科)、本田 親寿(会津大学)、西野 真木(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、座長:西野 真木(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

11:15 〜 11:30

[PPS13-09] 月磁気異常領域における太陽風イオン反射の質量依存性

*加藤 大羽1斎藤 義文2横田 勝一郎2西野 真木3 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、3.名古屋大学宇宙地球環境研究所)

キーワード:月、太陽風、磁気異常

月は満月の前後を除いた約8割の期間で地球磁気圏の外側に位置している。この期間、月には地球のような全球的な固有磁場も濃い大気も存在しないため、太陽風と月面が直接相互作用している。1960年代に磁気異常と呼ばれる局所的に強い磁場を持つ領域が月面で発見されて以降、月磁気異常と太陽風の相互作用の解明は、月周辺プラズマ環境における代表的な科学目標となっている。
太陽風イオンはH+が主成分で、次にHe++が数パーセントほど存在し、その他の重イオンはごく微量のみ含まれている。月磁気異常領域上空では太陽風イオンの10パーセント程度が磁場によって反射されることが知られている。しかしながらイオンの質量は磁気反射の運動を決める重要なパラメーターであるにも関わらず、反射イオンの質量依存性についてこれまで十分な理解が得られていない。
本研究では月周回衛星「かぐや」搭載イオン観測装置MAP-PACE-IEA,IMAと磁場観測器MAP-LMAGの観測データを用いて、月磁気異常でのイオン反射過程を定量的に理解することを目的とする。
反射イオンの解析を行った結果、太陽風H+と太陽風He++の月磁気異常による反射が確認された。H+とHe++で共に反射による加熱が確認されたが、He++の方が強く減速しておりフラックス反射率も小さいことが分かった。また観測方向の違いによる速度差が大きいほど、反射イオンの温度が高くなることが分かった。垂直方向で観測された反射イオンの方が低高度まで侵入した反射軌道を取るため、「かぐや」衛星の高度より下の領域でイオン加熱が行われ、非断熱的な反射を行うと考えられる。またさらに反射H+と反射He++で高エネルギーイオンのフラックス損失を比較した結果、フラックス損失の傾向にはラーマー半径依存が存在することが分かった。そのため月磁気異常領域上空の太陽風イオンは、He++の方がより低高度まで侵入し衝突が起こりやすいと考えられる。
天体の固有磁場によるイオン反射は、あらゆる天体で起こる普遍的な物理素過程である。月磁気異常領域は太陽系内で最小スケールの天体固有磁場の1つであり、この領域でのイオン反射メカニズムの解明は月周辺プラズマ環境のみならず、他の天体が持つ多様な環境の理解にも応用できると考えられる。